第70話 ズタボロな英雄3
「水蓮寺さん、あなたが言ってる意味がよく分からないわ。どうして悠斗を応援したらダメなの?」
「悠斗と関わるのはやめたほうが良いからです。アイツと仲を縮めたり、より深い付き合いになればなるほど自分にとって恐ろしいことが起きる。悠斗が調子に乗れば乗るほど周りのみんなは自分を失っていくんです」
「つまり、悠斗が目立つのに拍車をかけると他の選手がかわいそうだっていうこと?」
先輩は冷静になって水蓮寺の言い分を理解しようとしているがどうも話がかみ合っていないようだ。俺も水蓮寺が真剣なのは分かるが水蓮寺の言葉の意味を理解することはできなかった。またなんとも言えない雰囲気の中、遠くから元気な音が鳴り響く。
「さあ、ではいよいよ奴隷競争男子の部の開幕です! 白熱したレースをお楽しみください! では、位置についてよーいっドン!」
競争が始まって会場はまた大いににぎわい、先輩と水蓮寺が沈黙して見つめ合っている空間も騒がしくなっていた。水蓮寺は諦めるように先輩から目を逸らすときつい眼差しのままどこかに行ってしまった。
「……一条君、水蓮寺さんは悠斗と何があったの?」
「分かりません。俺もいつ水蓮寺と悠斗が接触したのか見当もつきません。でも何かがあったには違いないと思います」
「そう…………」
先輩はしおれたような元気の無さで静かに俺の隣へと座り直す。未知な二人の関係性は俺と先輩に不安を与える。とても今の気分では目の前のレースを楽しむことはできなさそうだった。そして……、
「そして……、今ゴール! 何ということでしょう! 上代悠斗選手、二位と圧倒的な差を付けて一着、そして男子の部完全優勝です!」
拍手喝采のテントの中で先輩は更に泥と傷だらけになった悠斗を静かに見続ける。そしてしばらくすると先輩は青い髪をしっかりと結び直してゆっくりと立ち上がった。
「一条君。私はまた別の仕事があるから生徒会室に戻るわ。……あと水蓮寺さんと悠斗のことは今はこれ以上気にしないでおきましょう。二人に何かがあったとしても今日の作戦を滞りなく進めればいい話だから。じゃあ、今日の6時50分に例の場所で会いましょう」
「はい。ではまた……」
先輩は丁寧に手を振った後、校舎に向かって歩いていった。……おかしい。やけに落ち着いた先輩に俺は違和感を覚える。そして次に俺のもとへやって来たのはズタボロな体で生徒からの歓声を一身に受ける英雄だった。
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