第69話 ズタボロな英雄2
「何よ……。アイツがあんなにもてはやされるなんて本当に不愉快だわ。日頃、大して活躍もしないくせに本番だけ大目立ちするなんて……私の立場が無いじゃない!」
水蓮寺は久々にツンデレヒロイン特有の理不尽すぎる苛立ちを見せていた。だが、俺から見るに今回の腹の立ちようはこれまでよりも激しくなっている。ほぼ地団太を踏む勢いで体を震えさせながら唇を噛み締める水蓮寺の姿を見て俺は違和感を覚える。
「どうしたんだよ、水蓮寺。お前そんなに悠斗が目立つのが嫌なのか? 水蓮寺だって開会式で挨拶して、午後の競技も出るんだからそこまで悔しがらなくても良いんじゃないか?」
「そういう問題じゃないの! アンタは私が悠斗にどれだけのことをされてるかしらないからそんなことが言えるのよ。私はアイツのことを絶対、許さないんだから……」
鬼気迫る表情で悠斗への恨み言を唱えだす水蓮寺に俺は少し困惑する。俺が知らないところで悠斗は水蓮寺と接触し、何か重大なことをしでかした。もしそれが事実だとして一体いつ悠斗は水蓮寺に……。片時も離れず水蓮寺と行動を共にしていた俺が知らない間に働きかけることは可能なのか……? 俺はまた腕を組んで長考する。すると俺の左隣の席にものすごい勢いで座る音が聞こえた。
「はぁ……、はぁ、はぁ…………。一条君、まだ奴隷競争は始まってないわよね?」
「え、えぇ。ちょうどこれから始まるところですよ」
「良かったぁ……。直前になって生徒会室でやらないといけない作業ができたもんだからもう見れないのかと……。本当に、良かったぁ……」
先輩は青い髪を取り乱した状態でゆっくり息を吸いながら安堵する。そして息が整った途端に先輩は前のめりになって、
「悠斗ーーーーっ! 私も応援してるから頑張ってーーーー! 悠斗なら完全優勝だって取れるよ!」
「おい、あの生徒会長があんなに上代のこと応援してるぞ。会長があんなにテンション高いの初めて見たぞ……」
「凄い……。あのクールな会長があんなに大きな声を出すなんて……」
冷静沈着なイメージの生徒会長が全力で応援する姿に周囲はざわめきだつ。当然、俺も驚いてはいたが今はそれよりも気になることがあった。そう、俺の右側に立つオレンジ髪の……。
「私の前でそんなに悠斗を応援しないでくれますか? 私、いくら早希さんが相手でも容赦しませんよ……」
さっきとは違う意味で静まり返るテント内。修羅場のど真ん中に座った俺はここからどう逃げようか必死に考えていた。
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