第68話 ズタボロな英雄1
英雄、それは常人からはかけ離れた凄まじい能力を使って歴史に名を遺す存在。古来より大きな戦いの度に幾千もの英雄が生まれ、人々を導いてきた。当然解放祭という名の戦いにおいても英雄は存在する。
「つづいての競技は~~! 男子各クラス代表によるメイン種目、奴隷競争です!」
解放祭前半戦の目玉である奴隷競争。いつもは冷静沈着に進行する放送委員もこの時ばかりは興奮を抑えきれず息を荒らげる。そしてそんな息の余韻一つも残さないほど大きな歓声が入場ゲートから順に会場を包んでいった。
「それでは、選手の入場です!」
入場ゲートから続々と姿を見せたのは各クラスから選ばれた名だたる強豪たち。その屈強な体は女であれば歓喜のうちに絶叫し、男であれば嫉妬と羨望のうちに嘆息させる。入場は順を追って滞りなく進行し、いよいよ最後の男の入場を待つのみとなった。
「「「きゃ〜〜〜〜〜っっ‼︎‼︎‼︎」」」
鋭い女子の叫び声と共にその男は現れる。傷だらけの腕に埃まみれのジャージ。一見頼りなく思える細い体にはこれまでの闘いの痕跡が所々に刻まれていた。
そう、彼の名は上代悠斗。俺の友達でラブコメ主人公である可能性が高いにも関わらず隷属部随一の存在感の薄さから最近は全く出番が無かった彼だったが、そんなことを微塵も感じさせないほど彼は輝いていた。
最初の種目からここまで全ての変態競技で一位を取り続けた彼は今、全冠に手を伸ばそうとしている。体格や体力で劣る者が完全勝利に近づくにつれ、観衆は湧き上がっていった。無論、俺がここまで雰囲気のある言葉で長々と語っているのも悠斗の姿に感化されてしまっているからである。
と、俺が自分の中で勝手に解説を入れていると悠斗にインタビュアーらしき数名の女子が近づいていった。
「上代悠斗さん、全生徒があなたの完全優勝に期待しているわけですが今のお気持ちはどうですか?」
「そうですね……。ボクがここまで来れたのも応援してくれた人たちのおかげだと思います。だから、そんな人達、特に君達には最高の勝利を届けれるように頑張ります!」
「「ぎゃ〜〜〜〜‼︎‼︎ 悠斗様〜〜!」」
普段なら吐き気がしそうな臭いセリフにも取り巻きの女子たちは狂ったように歓喜する。そんな異常な雰囲気に俺ですらも飲み込まれていた。……ただ一人を除いて。
「全くみんなどうかしてるわ。なんで悠斗なんかのことをチヤホヤするのか全っ然分からない!」
俺の横で文句を言いながらふてくされる水蓮寺。その目はなぜか恨みのこもったような不気味な光を発していた。
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