第67話 開会式で告知

「解放祭とは、日ごろ心の中で押さえてきた自分の中の欲望を余すことなく吐き出すためのお祭りです。日常とは全く違う場所でありのままの自分をさらけ出し、それをきっかけに他の生徒とも仲を深めていく。いわば解放祭は自分と他人との心の壁を取り払う最高のチャンスなのです!」


 水蓮寺が高々と手を掲げると、会場は更なる拍手と歓声に覆われた。最初は訳の分からないことを言っていると思ったが、水蓮寺と一緒に仕事をし続けてきた今ならアイツが伝えたい意味が少しは分かる気がする。すらすらとスピーチを続ける水蓮寺の裏には地道に黙々と努力を続ける姿があった。そしてそんな水蓮寺の努力はここまで大勢の人に伝わっている。それが分かった瞬間に俺は自然と笑みを浮かべメインステージに向かって拍手を送っていた。


「随分と呑気な顔をしているもんですね。貴方はこのイベントを普通に楽しめるような立場ではないのに」


「そういうお前もどうなんだよ。今は全校生徒がグラウンドに集まってるっていうのに何でこんな場所に来てるんだ? そんなに俺に会いたいっていうのならまた時間がある時にでも付き合ってやるよ」


「そんなこと……、あるわけないでしょう? 私の心は早希様だけに捧げるともう決めているのです。貴方と今こうして話をしているのも全て早希様のためです」


 俺が後ろを振り返ると少し表情を歪ませた石立の姿があった。水蓮寺や俺も含め全ての生徒がジャージ姿だというのにいつもと変わらない制服姿で立っている。俺足を引きずりながら近づくと石立は更に表情を歪ませて俺をにらみつけた。


「でも、なぜ貴方なんですか? いくら貴方が異変の影響下に無いとはいっても早希様は貴方に頼りすぎな気がします。私はそれだけが悔しくてたまりません……」


「俺が頼られているのはただ俺が先輩と同じ状況下にあっただけだ。他に理由は何もない。俺が選ばれたのはただの偶然だよ。……それよりも俺に話したいことがあるんだろ? 早くしないと開会式が終わっちまうぞ」


「今日の午後6時50分に目標の場所に集合しろと早希様から伝言を預かってきました。あと具体的な場所に関しては私を含め他言はしないようにということです」


「分かった。ありがとうな、石立。じゃ、俺は戻るぞ。開会式もそろそろ終わるし、仕事もやらなきゃいけないからな」


「待ってください!」


 俺が席に戻ろうとすると石立は声を張り上げて制止する。俺がまた振り向くと石立は悔しそうな顔をしながら震えていた。


「私は……、早希様が幸せになることだけを望んでいます。でも、私には早希様に直接してあげられることは何もない……。だから私は恥を捨てて貴方に全てを任せます。どうか……、早希様をよろしくお願いします……」


「あぁ、分かったよ……」


 俺は石立の頼みを承諾しながらもそれを裏切るかもしれない自分に罪悪感を覚える。自分がこれからしようとしている行為は先輩を幸せにできるのだろうか? 心に浮かんだ疑問に頭を悩ませる。やはり、俺がしようとしていることは間違っているのだろうか? 俺はとっさに質問を投げかけようとまた後ろを振り返る。しかし、石立の姿は既に消えていた。

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