第49話 秘密は祭りのあとに
「私があなたを助ける理由は……、そうね。不可抗力って感じかしら。私があなたを助けないとあなたも消えてしまいそうだったから……。私はただあなたが消えることを止めたかっただけ」
水蓮寺は普段とは違い言葉を選んで話し、自分の髪を触りながら少しいじらしい雰囲気を醸し出していた。俺が、消える。この世界がラブコメの法則に従って動いていることを理解したとしても常人なら決して使わない言葉遣いに違和感を覚える。俺が自分の中でしか感じえなかった悩みを当てそれを救うために全力を尽くした水蓮寺。更なる可能性と希望を期待して質問を投げかけようとする。しかし俺の口が開く前に水蓮寺の指が唇を抑えた。
「私は今、これ以上あなたに言えることはないわ。もっと私のことが知りたいなら……、そうね……。解放祭を完全に終わらせてからにして……、ね……?」
「解放祭を完全に終わらせる……」
「そう、一条も今は私のことなんて構う余裕ないでしょ? だから早希さんとのことに一区切りつけてから質問しなさい。約束よ、分かった?」
水蓮寺はなぜか少し寂しそうに微笑む。その大人の秘密めいた雰囲気に俺はますます好奇心を刺激された。解放祭を俺の力で終わらせれば水蓮寺が抱える秘密も分かるかもしれない。俺が変われば俺から見る先輩も水蓮寺も全部変わる。自分の世界を変える覚悟が固まった気がした。
「分かった。水蓮寺がそんなに言うならやってやる。今までの俺とは違うってところを解放祭で見せてやるから楽しみに待ってろよ」
俺は自分に発破をかける意味合いで水蓮寺に威勢よく宣言する。水蓮寺も俺の調子に合わせて勢いを増してくるかと思ったがその予想は外れた。
「分かった。今の一条はこれまでとは全く違うのね。でも頑張りすぎないで。いくら一人で突っ走ってもダメなものはダメなの。だから私も一緒に……」
水蓮寺の頬には涙がじんわりと伝っていた。俺は数秒前まで浮かべていた笑みの余韻のかけらもないほど驚き、月明かりを反射した涙の粒をただ見つめていた。水蓮寺は俺から顔を隠すように自分の腕を押し当てる。
「ごめんね。いつもいつも訳の分からないことばっかりして……、でもこれは一条のためなの。だからね……」
重要なことをはっきりと言い切れない口調で水蓮寺は続ける。自分が思い悩んでいた時と同じような何かを本能的に強く感じた。次の瞬間、俺はとっさに水蓮寺に抱き着いていた。
「いいよ。水蓮寺の気持ちは伝わった。俺は遠慮なくお前に頼って必ず解放祭を成功させる。全部終わってからでいいから……、今はそんな風に泣かないでくれ」
「うん……。お互いに一生懸命頑張って最後にまた会いましょう……」
俺は黙って頷きながら水蓮寺の身体からそっと離れる。水蓮寺の顔にはいつもより華やかな笑顔が輝いていた。少し肌寒くなった帰り道。俺と清純な少女は月明かりの下でまた歩みを進めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます