第48話 花火への想い3
「よし! じゃあお互いに意思を確認できたところで今日はお開きにでもしますか!」
「待て。さっきは聞き忘れてたが、お前は花火で先輩の告白をどうやって失敗させるんだよ?」
「は? そんなの簡単じゃない。早希さんが告白しようとしたタイミングでこう……、ボカーーンって感じで轟音でかき消しちゃえばいいのよ。ええ、そうよ。うんうん……」
最初は自信満々だったのにみるみるうちに勢いがなくなった水蓮寺はいつのまにか俺の肩を掴んでいた。
「どうしよう? 花火は長くても五分しか打てないのにどうやったらタイミングが合うの? 少しでもズレたら私がやって来たことも全部無意味になっちゃうじゃない。一条、何かいい案を出しなさい!」
水蓮寺は具体的な計画を考える前に準備を進めていたらしい。確かに普通ならどこでするかも分からない先輩の告白にタイミングを合わすのは難しいだろう。しかし、今の俺は違う。俺は乱暴に揺さぶってくる水蓮寺の手を掴んで強引に遠ざけた。
「先輩は屋上で告白する。現時点で正確な時刻は分からない。でも俺が近くに待機して電話でタイミングを伝えれば……先輩の告白と花火の音を合わせることができる」
「分かった。一条から合図があったら私が神谷さんに伝えるわ。よし、じゃあこれで計画を進めましょう! そうとなったらすぐにでも家に帰って準備しないといけないわ」
居ても立っても居られない様子で荷物をまとめ席を立つ水蓮寺。俺はマスターに軽く会釈して水蓮寺の後を追った。
喫茶店を出るともうすでに日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。人気が少ない夜の河川敷を水蓮寺はぐんぐん進んでいく。俺は一人にされないように少し息を乱しながらも水蓮寺の横に並んだ。静かな水音が響く夜の川辺では簡単に会話は生まれない。俺は横目で水蓮寺を見る。水蓮寺も白いワンピースを揺らしながら何か感じ入っている様子だった。
「そういえば何で水蓮寺はそのワンピースを着てたんだ? 俺を神谷さんに彼氏だって紹介したのと関係あったりするのか?」
「あぁ……、そういえばまだそのことについて話してなかったわね。私、一回神谷さんにお願いしに行って断られちゃったの。ほら……、私はいつもサバサバしてるじゃない? 神谷さんは恋とか青春とかそういう繊細な感情を大事にしてるから全然上手くいかなくて。最終的には『もっと年頃の女の子らしくなってみろ!』って怒鳴られちゃった。だから今回はしっかりおしゃれしてアンタを彼氏って紹介することでちゃんと対策していったってわけ。どう? 私、ちゃんと準備して偉いでしょ?」
楽しそうに自分の苦労を語る水蓮寺を見て俺は少し心苦しくなる。俺は自分を楽にするために水蓮寺に囁きかけた。
「水蓮寺。その何というか、ありがとうな……。お前は全く関係ないのにこんなに真剣に考えてくれて……」
「何よ。急にかしこまったことなんか言っちゃって。まだ依頼も完了してないのにお礼なんて言われる筋合いないんだけど」
「どうして……、そんなに俺を明るくしようとしてくれるんだ? 水蓮寺はどうして俺にそこまでしてくれるんだよ。それだけがどうしても分からないんだ」
少し汚れた煉瓦の道の上で俺と水蓮寺は足を止めた。沈黙の中で少女は真面目で誠実そうなことが伝わるほど真剣に考えを巡らせる。いつもとは違う水蓮寺の姿。水蓮寺遥という人物の本当の姿は一体なんなのか? 俺は解けない謎に気を取られ月明かりに照らされた美しい顔立ちをただ見つめていた。
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