第47話 花火への想い2

「なんで水蓮寺がラブコメのことを……。お前、異変について認知してなかったはずじゃないのか……?」


「バカね。私もそこまで頭の硬い人間じゃないわ。体育館倉庫でアンタと一緒に閉じ込められた後、美琴に話を聞いたのよ。でもはっきり言ってそれは今回のことには全く関係ない。大事なのはあなたに覚悟があるかどうか……」


 水蓮寺は俺に回答する時間を与えるように少し間を開ける。しかし、俺がまだ迷いの中で黙っているのを見ると水蓮寺は目に更に力を込め俺を見つめた。


「早希さんが悠斗の告白に成功することは一条にとってどんな意味があるの? アンタにとって早希さんが悠斗と結ばれることはどうでもいいことなの?」


「どうでもよくない! でも俺は……、先輩の邪魔をする資格なんて……」


「あるわよ。自分が好きだと思う人を他人に易々と取らせないようにする権利は一条にもある。でも権利があっても使わなかったら意味がないの。今のアンタは悠斗から早希さんを奪う覚悟が無いから逃げてるだけでしょ!」


「俺が先輩を奪う覚悟……」


 水蓮寺が机を拳で強く叩くと同時に俺は眠りから覚めるように呟く。先輩の恋愛を破壊して奪う覚悟。ずっと心の中で考えていたことだ。そしてここ最近の俺は半ば諦めてもいた。俺一人では何もできない絶望的な状況。それでも可能性があるのなら。俺は希望の道筋を求めるように水蓮寺をじっと見つめて深く頷く。水蓮寺は真っ黒な瞳の奥を爛々と輝かせながら深く頷き返した。


「自分一人でできないのなら他の誰かを頼ればいい。頼るのが苦しいなら私に依頼しなさい。都合が良いことに私は人に奉仕の限りを尽くす隷属部の部員なの。誰も理解できないくらい不可解で無茶な願いでも私ならきっと叶えられる。さあ、私に依頼しなさい!」


 水蓮寺は一人では何もできないこの俺を暗く闇深い状況から助け出そうとしてくれている。もう既に自分のことで他人にここまでさせておいて俺はただ何もせずにうずくまっているだけでいいのか? 嫌だ、俺はそんなに弱くはなりたくない。俺は……、自分のために自分を立ち上がらせるんだ……!


「俺は先輩が……、新城早希のことが大好きだ! 絶対に他の奴には譲りたくない。全力で告白を阻止してくれ。これは……、俺からのわがままな依頼だ!」


「依頼されたんなら仕方ないわね。了解、アンタの依頼はこの私が引き受けてあげる! 依頼遂行が完璧すぎて驚かないように注意してなさい!」


 続け様に場違いな大声が飛び交った後、俺は自分を鼓舞するように堂々と胸を張る。水蓮寺はなにかとやる気に満ち溢れた目で思い切りよく笑った。

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