第46話 花火への想い1

「……失礼いたしました。ではお二方、席にご案内いたします」


 マスターは涙をハンカチで拭うと角の席へと俺達を案内した。古びたソファーに腰を掛けて喫茶店全体を見渡すと今までにない安堵感がする。ここは本当にいい店のようだ。


「こちらは私からのサービスでございます。では、どうぞごゆっくりお過ごし下さい……」


 マスターは俺にコーヒー、水蓮寺にオレンジジュースを置いてカウンターへと戻っていった。俺は喫茶店の雰囲気を存分に楽しみながらコーヒーに口を付ける。まだ飲みなれてないせいか少し苦く感じるな。でもこの雰囲気の中でなら悪くないかもしれない……。俺もすっかり喫茶店の大人な雰囲気にかぶれて、脳内で雰囲気のあるセリフを呟くほどに酔いしれていた。水蓮寺はそんな俺の様子をストローでジュースを吸いながらじっくりと見つめる。この店では水蓮寺も大人しくなるんだな……。俺がそう思っていると、


「アンタってここみたいなお洒落な雰囲気の場所に全く似合わないわね。ほんと、ここまで似合わないのが不思議でたまらなくなるくらいだわ」


 ……やはり無神経はどこへ行っても無神経らしい。覚めてしまった俺はすかさず水蓮寺追及にシフトした。


「じゃあ水蓮寺、今回の件についてお前が考えていることを全部教えてもらおうか。まず、何で水蓮寺は花火を打ち上げたいと思ったんだ?」


「私が花火を解放祭でしたかったのは解放祭の最後を盛り上げて最高のものにしたいから……ってさっき言ってたけど本当はあと一つだけ理由があるの」


「他に理由なんてあるのか? 一体誰に何のために花火を上げるんだよ?」


 俺が問いかけると水蓮寺は不機嫌そうに俺を指さして、


「誰って……、あなたのために決まってるじゃない。まさか一条、アンタ自分が言ってたこと忘れちゃったの?」


「俺が言ったこと……?」


「解放祭は早希さんが悠斗に告白するための場所だってアンタ言ってたじゃない。それなのに今まで何もしないでただ悩み続けるなんて……アンタ、バカなんじゃないの⁉︎」


 俺が勝手に抱えていた鬱憤を粉々にするほど気持ちよく水蓮寺は俺を罵倒する。水蓮寺は俺の気持ちを確かめるように顔を近づけた。


「私決めたの。一条が一人で悩んで落ち込ませるのはもう終わらせる。それが私が花火をしたい理由よ。一条、アンタ……ラブコメクラッシャーになる覚悟はある……?」

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