第41話 詰めの時期

「みんな……。今日は部長としてみんなに話があるの……」


 週が明けて月曜日の放課後。水蓮寺はもはや芝居がかったほど感傷的に話し始めた。俺の中では水蓮寺はまともな状態と変人の状態で差があることが判明しているが、どうやら今日は変人のほうらしい。どんな訳の分からない主張が飛び出してくるのか。俺はもはや水蓮寺の言動を予測することもやめ、ただ椅子に座って見守っていた。


「ここ数週間で私達は役員としての業務をおおむね終了させて解放祭の準備もスムーズに終わらせてきたわ……。でも、ここで私達が手を抜いたら解放祭はありふれたただの変な競技の寄せ集めになってしまうの。それにうちは隷属部よ。私達でできる最大量のご奉仕を今するべきだと思うの! というかみんな今の業務量は少なくて満足できないでしょう?」


 なるほど、罰が終わったら次の罰ということか。横を振り向くと、悠斗は毎度のように顔色が悪くなっていた。水蓮寺はそんなことは気にもせずに調子良く続ける。


「そんな奉仕精神溢れるみんなのために部長の私が仕事を持ってきたの! ほら見て今日一日学校中を回っていっぱい仕事を集めてきたわよ! 一応、隷属部内で意見を聞いてから隷属部の担当にするか決めようと思ってるんだけど意見ある人いる?」


 そう言って水蓮寺は書類の山を机の上に取り出した。この量は今までやってきたものの倍はあるかもしれない。こんな滅茶苦茶な量の仕事なんてやりたいわけがない。もちろん反対だ。俺と悠斗は互いに示し合わして反対意見を唱えようと画策する。しかしその瞬間に桐葉の腕が勢いよく上がった。


「遥さん、その量はなんなんですか? それって私達がやる予定の業務ですよね? 本気で私たちにその量の業務をやらせようとしているんですか?」


「うん……、そのつもりだったんだけど……」


 いつもは水蓮寺と意見が一致する桐葉が珍しく凄まじい剣幕でまくしたてる。……いいぞ、もっとやれ。俺と悠斗は希望に満ちた目で桐葉を見つめていた。


「そんな少ない量で物足りると思いますか? 私達は隷属部の部員ですよ? これの倍は無いと困ります! 今すぐ仕事を持ってきてください!」


「桐葉ちゃん、ありがとう……。おかげで私も目が覚めたわ。分かった、今から仕事集めてくる!」


 水蓮寺はますますやる気を出して部室を走り去っていった。悠斗は流石にまずいと思ったか水蓮寺を止めにかかる。


「待て、遥! まだ俺達は意見を言ってないぞ!」


「え……。悠斗さん、私の意見じゃダメですか? 悠斗さんも私と同じ意見だと思ったのに……」


「う……、もちろん俺も桐葉ちゃんと同じ意見だよ。ただ遥に落ち着いていったほうが良いって言おうと……して……」


 悠斗は桐葉と地獄の二択の中で自分を殺すことを選択したらしい。しかしまだ完全には諦めていないらしく桐葉に向けた笑顔は引きつっていた。


「そうですよね! 私も悠斗さんと一緒にできる仕事が増えるなんてとっても嬉しいです!」


 桐葉は悠斗の心を傾かせようと魔性の笑顔を無邪気に向ける。俺の視点からみれば今の桐葉は天使というより小悪魔のように見えた。俺は完全に諦めて水蓮寺が追加の仕事を持ってくるまで悠斗と桐葉のやり取りを黙って見守ることにした。

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