第42話 水蓮寺の下準備1

「よしっ! 仕事の振り分けはこんな感じでいい? じゃあ、みんな明日から気合入れ直して頑張っていきましょう!」


「はいっ! 遥さん、私も死ぬ気で頑張ります!」


 水蓮寺と桐葉は大量の資料を抱え、ハイテンションで話しながら部室を後にしていった。アイツらがなぜあそこまで生き生きとしているのか全く分からない。俺は手元の紙の塊に目を落す。これは……、解放祭まで寝られないかもしれないな。理不尽すぎる仕事量にもはや俺は壊れたように笑ってしまっていた。


「一条……、過労死ってこうやって起きてるんだろうな……。俺の命も解放祭まで持つかどうか……」


「おい、死ぬなよ。お前が死んだら俺の仕事が増えるんだからな」


「一条も薄情な奴だな。分かってるよ。その代わりお前も俺の仕事を増やすような真似だけはするなよ。さて、この量をどう終わらせるか……。今日は計画を立てないとな……」


 さっきまで泣いて後悔していた悠斗も現実を受け入れたようで悟ったような状態ですんなりと帰宅していった。さて、俺も帰るとするか。俺は部室を施錠して鍵を職員室に返しに向かった。


「………分かったよ。水蓮寺、お前がどんな考えでそれを計画しているのかは分からんが熱意は十分に伝わった。この案件は近隣への影響が大きいという言付けで教務部が預かることにしよう。イベント後の生徒会への取次はお前に頼んでいいんだな?」


「はい、私も解放祭の役員ですので問題ないと思います。では武内先生、くれぐれもこの件は内密に……、お願いします」


 俺が職員室に入ろうとすると真剣に相談する水蓮寺の声が聞こえてきた。今まで何を話していたのかは分からないが、水蓮寺は教務部と手を組んで何やら重大なことをやろうとしているらしい。更に耳を扉に近づけて盗み聞きしていると水蓮寺は要件を話し終えたようでこちらに向かって歩いてきていた。俺は一瞬隠れてやり過ごすべきか迷う。しかし俺は直感的に水蓮寺と相対することを選択した。


「どうしてアンタがここに⁉ さっきの話聞いてたの?」


 水蓮寺は扉を開けた瞬間に俺が現れたことに驚愕する。俺は鍵を取り出して、


「そんなに驚くんならしっかり自分で鍵を返しておくべきだったな。……それで、水蓮寺は生徒会に無許可で何をしようとしてるんだ?」


「どうせ無視して何も教えないって言ってもアンタは早希さんに報告するとか脅して無理やり知ろうとするんでしょ? 分かったわ。アンタには全部教えるから」


 俺が問いただすと水蓮寺はあっさりと諦め、ため息交じりにメモを渡す。そこには学校から少し離れた場所の住所が簡単な地図とともに書いてあった。


「明日の放課後、ここに来なさい。そうしたら私がやろうとしていることを話してあげてもいいわ。じゃ、今日は私帰るから」


 水蓮寺は不貞腐れた顔をしながら階段を降りていった。とりあえず明日、だな……。俺は一旦考えることを止め、ポケットにメモを突っ込むと速足で職員室に入っていった。

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