第40話 告白場所探し2

「私、初めて屋上に来たけどすごいわね。グラウンドも体育館も学校の全部が小さく見える。とっても、綺麗……」


 先輩が幼女のようにフェンスにすがりつく後ろで、俺も屋上からの景色を見渡す。普段下からしか見ることのない学校を上から見るとなぜか高揚感に襲われた。解放祭の時にここから覗けば、もっと特別な光景が見られるのだろう。俺は先輩と同じようにフェンスを掴んで思いを馳せていた。


「屋上だったら、入口の鍵さえ閉めれば邪魔できる人はいないよね? 雰囲気もとっても良さそうだし。………決めた。私、ここで悠斗に告白する」


 俺はただ先輩の決心に頷くことしかできなかった。少し前までは入ることさえ許されなかった場所での特別な思い出。それを先輩が自分で作り出そうとしていることを認知して、想像するだけで手一杯だった。でも、例え俺がすぐに思考を整理できたとしても先輩を止めることはないだろう。それほどまでに今の先輩は俺が好きになったそのままだった。


「私がここで告白する時、一条君も側にいてくれる? もしダメだった時でもここの素敵な風景を嫌いになりたくないの……」


「はい。俺はただ先輩の近くに、側にいます。先輩が先輩でいられるように俺は……、扉の向こうで待ってます」


 曖昧でちぐはぐな言葉を並べたせいか俺は先輩に顔向けできなかった。五月の透き通った風が屋上の中心を通り抜けていく。自分の不甲斐なさと先輩への尊敬が織り交ざったような感情は風に共鳴するように強くなり俺はフェンスを握る力を強めた。先輩は俺の力を抜こうとしたのかそっと俺の腕を手で押さえる。少し表情を緩めて柔らかな声色で先輩はそっと囁いた。


「ありがとう。一条君がこんなに優しいなんて私知らなかった。私は悠斗にフラれるかもしれないけど、今はそれでもいいって思えるの。私はそれだけ一条君のことが……」


 風と共に爽やかな空気が俺の心にもなだれ込んでくる。俺の大好きな先輩が俺のことを見て恥ずかしそうに微笑むこの瞬間がとてつもなく愛おしい。このまま一生、この時に閉じ込められればいいのに。俺は心の底から願っていた。先輩は俺の拳を握りしめ、俺の両目を幸せそうに見つめる。




「一条君のことが……、大好きだよ」


 

 鬱屈とした心の中全てを先輩の優しさと柔らかさが包み込んでいく。限られた幸せを噛み締める間も風は自由に吹きわたっていく。俺は静かに目を瞑り、最後かもしれない先輩の感触に感じ入った。

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