第37話 隷属部大食いバトル2

「じゃあ、隷属部わんこそば対決を開始します! 制限時間は30分でより多くの杯数のわんこそばを食べたほうの勝利です! では、用意……始めっ!」


 桐葉の合図で俺と悠斗は一斉にそばをすすり始めた。俺の横には水蓮寺、悠斗の横には桐葉が立ってお椀を空にした瞬間に次のそばを入れてくる。水蓮寺の目の前で食べるペースを少しでも抜けば俺は大変な目にあってしまう。俺は悠斗を横目で見ながら食べるペースを合わせていく。


「桐葉ちゃん! おかわり! すぐに次のそばをくれ!」


「悠斗さん、凄いですね! そんなに早く食べれるなんてかっこいいです!」


「そう言っている間にもう一杯食べ終わった! 次のそばをくれ!」


 明らかに桐葉に調子づけられて悠斗はペースを上げていた。流石にあそこまで早く食べるのは無理か……。俺は悠斗よりペースを落そうとするがもちろん隣の鬼が許してくれるはずがない。


「じゃんじゃーん! 少しペースが落ちてきてるんじゃないの? ほら、さっさと食べなさい。私がせっかく入れてあげてるんだからじゃんじゃん食べなさい!」


 水蓮寺の鋭い眼光で俺はペースを大幅に上げ、悠斗と同じ勢いでそばを食べ進めていく。そして制限時間まで残り五分を切った頃……、


「悠斗さん……。もうそろそろやめておいた方が良いんじゃないですか……?」


「いや、まだまだあと十杯はいける! 桐葉ちゃん頼む、おかわりをくれ!」



「一条、悠斗はまだ十杯いけるみたいよ。アンタもまだ食べれるわよね⁉」


「十一杯ならなんとか……。いけます!」


 もはやご褒美や罰に関係なく俺と悠斗は純粋に対決を楽しんでいた。両陣営ともすでに百杯以上のお椀を積み重ね、まだ食べるペースも衰えていない。胃袋の限界はとうの昔に越えてしまっていた。


「あと三十秒!」


 桐葉のカウントで俺と悠斗はスパートをかける。ここまで来たら絶対に負けたくない。勝利への執念だけでそばをかきこみ続ける。二人は終了のアラームが鳴る瞬間に最後の一杯を机の上に勢いよく机の上に置いた。そのまま水蓮寺と桐葉がそれぞれのお椀の数を集計する。緊張の瞬間、俺と悠斗はアスリートのように祈りながら結果発表を待っていた。


「上代悠斗……、百二十三杯。一条俊……、百十九杯。勝ったのは悠斗さんです!」


「よっしゃー! 勝ったぞー!」


 悠斗が勝利の雄叫びを上げる中、俺は腹を抱えて静かに項垂れた。勝負が終わった途端に水蓮寺の恐怖が再来する。


「さて……、アンタにはどんな罰を与えようかしら……?」


 俺は限界以上に食べきったにも関わらず水蓮寺は罰を与える気しかないらしい。だがその理不尽さももはや予測できていた。甘んじて受け入れるしかないだろう。俺がそう思って天井を見上げていると突如救いの手が差し伸べられた。


「そうね……。なら、一条君は罰として私と一緒に校内施設を点検するなんてのはどう?」


 俺の視界に突然現れた先輩は俺の苦しむ顔を見て少し哀れむように微笑みかけた。

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