第36話 隷属部大食いバトル1
解放祭まであと三週間に迫った土曜日。俺と悠斗は朝早くから体育館に召集されていた。水蓮寺曰く休日にしかできない競技を試したいということだったがいったい何をするんだ? 俺と一緒に体育館へと向かう悠斗も嫌な予感しかしていないらしく死地に向かうような絶望的な表情だった。
「二人共、逃げずによく来たわね! もう準備はできてるわよ!」
「おにい、遅いよ! 私達朝五時から学校で準備してるんだからね! さあ、悠斗さんも早く席に着いて、着いてっ!」
体育館の扉を開けた瞬間に水蓮寺と桐葉に拘束され、俺と悠斗はそれぞれ席に座らされる。さて、これからどういう競技をするんだろうか。この一週間で水蓮寺から数々のSM競技を強いられてきた俺はもはや耐性がついているようだった。逆に悠斗は全く競技をプレイしたことがないためかさっきよりも顔色が悪くなっている。そしていつの間にか水蓮寺と桐葉の姿が体育館から消えていた。俺達が特に雑談するわけでもなく数分待っていると、
「「お待たせ! 二人共、楽しい楽しい競技の時間よ!」」
朝一だとは思えないほど大きな声とともに水蓮寺と桐葉は大量のお椀とお盆を持って現れた。俺はこの時点でこの後の地獄を確信する。
「それを使う競技っていうことはつまり……」
「そう、今日やる競技はわんこそばの大食い対決よ! 今日の二人の結果でそばをどれくらい準備するかが変わってくるからくれぐれも手を抜いちゃダメよ。自分のお腹が弾けるまでそばを食べないと許さないからね!」
そう言うと水蓮寺は長机の上にお盆を勢いよく乗せる。あまりにも多いそばの重みに安っぽい机は耐え切れないようで鈍い音が鳴り響いた。
「腹が弾けるまでって……、そんな量俺達が食べきれるわけないだろ! 俺はもう帰るぞ!」
怒って不機嫌そうに帰る悠斗。桐葉はそれを見ると悠斗に駆け寄っていき、
「悠斗さん。そばをちょっとだけ作りすぎたのは謝ります。でも私達が一生懸命作ったのでどうか全部食べてもらえませんか? 最後まで食べきったら私からご褒美をあげますので……」
「よし、やろう。わんこそばぐらいできないと男じゃない!」
節操のない奴め。まあ、好きな女子からあんなことを言われたら断るわけにはいかないだろうな。だが俺はそこまで馬鹿じゃない。リスクとリターンを比較して結論を導き出せるくらいの頭は持っている。今の状況の場合、確実に大食いを回避するのが正しい。俺はできるだけ気づかれないように悠斗と桐葉の喋り声に紛れて静かに退室しようとするが肩のあたりにとてつもない力と恐怖を感じた。
「あれ~。一条~、まだなんにも食べてないのにお腹痛くなっちゃったの~?」
「ああ、そうなんだ。だから少しトイレに……」
「アンタ、ここで解放祭を潰す気なの? そばを食べずに帰るようならアンタ自体を潰すわよ……」
俺はリスクとリターンを再度比較する。……よし、リスクのほうが大きいな。俺は水蓮寺に付き添われながらまた静かに席に着いた。
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