第26話 優秀な部下?
「早く答えなさい! まさか貴方早希様に何かしたの……?」
俺の至近距離で興奮する石立。俺は石立と壁の間で完全に身動きが取れなくなっていた。身長差のせいか石立の綺麗な黒髪の匂いが直接鼻になだれ込んでくる。近い近い近い! 顔も近いし体に至っては密着してしまっている。俺は石立の質問にまともに答えれるはずもなく石立の荒い息遣いから逃げるように天井を見上げた。
「やっぱり貴方、早希様にやましいことをしようとしていたんですね? それならいっそここで!」
石立は俺から飛ぶような勢いで離れると敵を見る目でぎこちなく構える。状態異常が回復して冷静をとりもどした俺は石立を制止しにかかった。
「ちょっと待て! 何を勘違いしてるんだ。俺は先輩にやましい気持ちなんて……」
……いや、あるな。俺が分かりやすく顔を真っ赤にして黙りこくると石上も同じように赤面する。石立は再び下手な構えに戻して、
「やっぱりあるんじゃないですか! 早希様に近づいて何をご所望なんですか? 権力ですか? それとも金銭を搾り取ろうとか?」
「いや、そんなことはない。でも俺はただ先輩のことが……」
俺はそこで急に口をつぐむ。最近すっかり恒例となった夕方の気まずい展開。流石に俺も嫌気がさしてきた。石立みたいなタイプに隠し事をしても良いことはない。ならいっそここで言ってしまおう。俺はやけになって石立を力強い視線でとらえると、
「俺は純粋に先輩のことが好きなだけだ。それに何か文句でもあるのか?」
「なるほど、すいません。大変失礼しました。二人はいわゆるそういった関係だったんですね……。だから早希様もいつもと違った顔つきだったと……」
無駄に悪い俺の目つきが役に立ったのか石立は申し訳なさそうに後ずさりながら謝罪する。よし、山場は乗り切ったな。次はこっちの番だ。俺は一息つくと今度は逆に石立に質問を仕掛ける。
「というか、なんで石立はそんなことが気になるんだよ。あと早希様ってお前こそ先輩とどういう関係なんだ?」
「私にとって先輩は憧れであり、尊敬するに値する唯一の存在なんです。貴方も私と同じ二年生なら分かっているでしょう? 私はただ早希様のような方には幸せになってほしいと思っているだけなのです」
「だから解放祭の役割にも協力するって言うことか……」
「はい、そうです。生徒会長が今回のように自らイベントを新設するなど前代未聞のこと。それでも計画を進めようとする早希様からは並々ならぬ想いが伝わってきました。私は早希様がどういった気持ちを持っているかは分かりませんがどんな場合でも早希様には幸せになってほしいんです!」
石立はまるで水蓮寺のような怪しい目の輝きを放ちながら熱弁をふるう。そして演説で勢いを得たのか石立は俺にまた急接近すると勢いよく人差し指を突き立てた。
「貴方も私と同じように特別な役割を得ているものならば今ここで忠告しておきます。どんな考えかは知りませんが貴方がもし早希様を泣かせるようなことをすれば私が絶対に始末します! 絶対にです!」
また癖の強い奴がきてしまったなぁ……。人前では絶対に見せないほどの大股で廊下を突き進んでいく石立の姿を目で追いながら俺は弱々しく頭を抱えた。
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