第25話 優秀な部下2

「俺はもう友達を裏切ったりはしない。絶対にだ……」


 嘘つけ。悠斗はまたすぐに俺を裏切るだろ。まあ、俺もあいつと同じ立場ならすぐに裏切るだろうが。俺も水蓮寺に痛めつけられた背中を伸ばしながら軽くうめき声をあげた。


「じゃあ、私たちも帰るわよ。もうすっかり暗くなってるし」


 水蓮寺が俺にカバンを投げつけながら隷属部の部員に指示すると、椅子に座って様子を見ていた先輩が突然立ち上がった。


「水蓮寺さんちょっと待って。一条君にまだ少し用事があるから置いていってもらってもいい?」


「分かりました……。一条、しっかり用事をこなしていきなさい。私たちは今日はもう……、さっさと帰っておくわ」


 水蓮寺は俺の目を見て少し心配そうな表情で優しく声をかけると桐葉と悠斗を追い出すようにすぐに生徒会室から出ていった。そして生徒会室に残ったのは……。


「ごめんね。一条君も片付けまでしてくれたのにまた残らせてしまって……」


「いや、俺はいいんですけど……。何というかその……」


 俺は石立を気にしながら先輩にだけ聞こえるように小声で囁く。しかしそれに反応したのは石立だった。


「お気遣いなく。私も早希様……、いえ早希さんからお二人の事情は聞いております。私はいまだににわかには信じられませんが……」


 石立は少し困惑した様子で俺と先輩を自信なさげに見つめる。俺も先輩に目線を移すと、先輩は真剣な面持ちで手を組んでいた。


「一条君、美琴ちゃんは私たちの協力者だから異変のことについて話しても大丈夫よ。美琴ちゃんには私たちの間を行き来させて何か動きがあれば手伝ってもらう予定なの。だからそのことを一条君に伝えておこうと思って……」


 なるほど、先輩はあらゆる可能性に対応できるように対策を打ってきたらしい。確かに俺としても石立がいたほうが先輩の状況が把握できるからいいかもしれないな。俺は先輩の言葉に反応するように何度も深く頷く。


「分かりました。石立とはこれからしっかりと連絡するようにします。じゃあ、俺はもう帰りますね。あまり遅くなりすぎると桐葉に心配されるんで」


 今日はすっかり疲れ切っていた俺はすぐに廊下を出ようとする。すると石立が俺の肩を掴んできた。


「なら私も一緒に帰りましょう。早希さん、よろしいですよね?」


「ええ、気を付けて帰ってね。私は明日の分の雑務を片付けておくわ」


 先輩が微笑みながら了承すると石立は今日一番の笑顔で返した。いきなり一緒に帰るって俺と何がしたいんだ? 桐葉の件があるからか俺の脳内は心配と疑念で満ち溢れていた。とりあえず適当なところで石立とは別れることにしておこう。そう心に決めると俺は石立と一緒に生徒会室を出て無言で廊下を歩きだす。


「…………」


 一緒に帰るといったくせに一言も喋らないじゃないか。俺はますます石立の意図が分からなくなる。しかし生徒会室から少し離れた教室の前に到達した瞬間、


「一体貴方は早希様とどういった関係なの? 答えようによっては私にも考えがあるわよ……」


 俺は人生初の壁ドンをされながら低く唸るような声で脅されていた。

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