第24話 優秀な部下1

「水蓮寺さん、あなた最近調子乗りすぎなんじゃないの? 大事な発表会をめちゃくちゃにするなんてこれは後でお仕置きが必要みたいね」


「ひぃぃ。す、すいません。もうしませんから許してください!」


 発表会が終わった直後、水蓮寺は先輩にまた胸ぐらを掴まれながら説教されている。しかし水蓮寺は反省している様子もなければ特におびえる様子もなくただただ幸せそうだ。


「水蓮寺、お前本当にもうしないんだろうな?」


「しないわよぉ。だってそんなことしたら早希さんからご褒美……、お仕置きされるじゃない!」


 これはダメだな……。水蓮寺を叱るには他の方法を考えたほうが良いらしい。でもあいつを反省させるにはどうしたらいいか……。そんなことを考えながら隷属部の部員たちは黙々とパイプ椅子を折りたたんでいった。



「じゃあ、新城先輩片付けも終わったんで俺達帰ってもいいですか?」


「ダメよ。隷属部のみんなはまだ美琴ちゃんとしっかり挨拶していないじゃない。美琴ちゃん、みんなに挨拶しなさい」


 先輩に促されると石立はクールそうに眼鏡を上げ、鋭い目つきで隷属部メンバーを一瞥いちべつした。


「……石立美琴です。隷属部の皆様には今回新イベントに向けて大変お世話になっております。私も力不足ではございますが、どうぞこれからよろしくお願いいたします」


 簡単だが、石立美琴という人物が真面目で誠実だとすぐに分かる完璧な挨拶。俺と悠斗はそのさに胸が高鳴っていた。


「すごい、生徒会には新城先輩だけじゃなくこんなにまともな人がいるんだな! なんか久しぶりに凄く感動した気がする」


「そうだな、ここまでまともな人が手伝ってくれるのはありがたすぎる。俺達の部活にも入ってほしいくらいだ!」


 俺達は自分の気持ちが抑えきれず余計なことをべらべらとしゃべり続ける。そしてそのことに気づいたときには案の定、俺達の背後には不穏なオーラがあふれていた。


「ちょっと……、私たちがまともじゃないみたいに言ったのはどこの誰かしら?」


「ヤバい! 俺はもう痛い目にあうのは嫌だ! じゃあな一条!」


 悠斗はこのことも予測してすでに対策を打っていたようだ。全く薄情な奴め。悠斗は俺が水蓮寺に締め落とされそうなのを横目に見ながら全力で教室を去ろうとしている。するとその瞬間、


「桐葉ちゃん!」


 水蓮寺の声が響くと、どこに隠れていたのか悠斗に桐葉がとびかかった。そして桐葉は悠斗のむこうずねを蹴り、そのまま寝技に持ち込んで……。あれ? なんかこの流れ見たことあるな……。


「いやあ、遥先輩から護身術を習ってて正解でした。まさかこんなにすぐ役立つ時がくるなんて!」


「痛い痛い痛い! 桐葉ちゃん、力加減できてないって! 一条、助けてくれ! これなら遥に技かけられたほうがマシだ……」


 数秒前まで俺を見捨てようとしてた罰だろ。俺は水蓮寺に締められながらも更に痛そうな思いをしている悠斗を見て思わずほくそ笑んだ。

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