第20話 病院で1

 俺は水蓮寺に話を切り出すまで、新イベント会議後の生徒会室を思い出していた。先輩の黒く潤んだ瞳、震える体、そしてかろうじて聞こえるようなか細い声。今となっては夢のような出来事。俺は思いを馳せていた。だが、これは現実だ。俺は4日前のありのままの事実を水蓮寺に伝える。


「俺は先輩に……、早希さんに告白された」


 水蓮寺は反射的に手で口元を隠し、驚きをむき出しにする。俺はそのまま衝撃を自分が感じた通りにさらけ出す。


「でも先輩は悠斗のことが好きなんだ。それも告白しないのが辛くなるくらいに……。今回のイベントも、先輩が悠斗に告白するために企画した。それなのになんで先輩は俺にも告白したのか、全然分からない……」


「そんなの決まってるじゃない。早希さんは二人のことが大好きなのよ……。自分じゃどっちか選べないくらいに………」


 水蓮寺は俺の質問を予測していたかのように迷いなく答えた。しかし当の水蓮寺本人はまるで俺の苦悩が伝染したかのように、憂鬱な様子で両手を組んでいる。しばらくすると水蓮寺は椅子をベッドに寄せ、俺にそっとつぶやいた。


「一条、あなたは早希さんのこと好きなの?」


「…………好きだ」


 俺は自分の中でためらいながら、なんとか水蓮寺に伝える。すると水蓮寺はいきなり立ち上がって、満面の笑顔を見せた。


「なら早希さんを力づくで奪いに行きなさい。早希さんが決められないのなら、あなたが考え込んで悩み続ける必要ない。私は……、早希さんと同じ立場だったら絶対にそう思うから」


 そう言うと水蓮寺は扉に手をかける。それと同時に、隙間風がカーテンを押し上げた。水蓮寺はもう一度左右に束ねた髪を揺らして俺に振り向く。


「このことは私とアンタだけの秘密にしといてあげる。だから次にアンタに何かあったらすぐに私に言いなさい。その時は私が慰めてあげるから……。いい? これは部長命令よっ!!」


 水蓮寺は息を吹き返したかのような勢いで、約束を押し付ける。俺は水蓮寺の気遣いを無言で受け入れることにした。春の風が吹き込む暗い病室で、俺は久々に夜を迎えた。

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