第19話 起き上がり
少し、風の音がする。俺は今まで何をしてたんだ? 考えても全く思い出せない。しょうがない。起きるか。目を開けるとベッドの横には悠斗が座っていた。
「よう、やっと起きたか。みんなずっと心配してたぞ。俺はそうでもなかったけど」
「ここは、どこでいつなんだよ? 俺は今まで何してた?」
「一昨日桐葉ちゃんの前でぶっ倒れてから、丸2日病院で寝てたんだよ。というか、お前もなんで急に意識失ったんだ? 桐葉ちゃんに手を握られて興奮したとか、そんなしょうもない理由だったら遥に一発食らわせるように言っとくからな」
悠斗は俺が起きた瞬間に大量に言葉を浴びせてくる。そういえば春になってから、悠斗とはまともに話してなかったな。俺達は友達なのに……。二日もまともに考えていなかったせいか、俺はここ数週間の状況に違和感を覚えていた。しかしその間も、悠斗はどうでもいいことを次々と話し続ける。
「起きた瞬間にごちゃごちゃ喋るなよ。大体、悠斗お前最近一つも俺に話しかけてこなかったのに、なんで今日はこんなにうるさくなってるんだ?」
「あんな癖が強い女子達がいたら、無口にもなるだろ。そういえば昨日の遥もだいぶ変だったぞ。いきなり競技運営の係を一条とやるって聞かなかったんだから」
「まあ、水蓮寺は俺だったら奴隷みたいに扱えるとでも思った……」
そこまで言いかけたところで、俺は扉から鋭い眼光と殺気を感じた。首を少し傾けると扉の隙間からオレンジ色の髪が見える。俺はすかさず黙り込むが、悠斗は全く気が付いていない。
「そうだよな! 遥は部員を人として見てない自己中な奴だから。これから一条は大変だな。せめて今くらいはゆっくりしとけよ」
「誰が、自己中ですって………」
ついに水蓮寺は悠斗の背後に来てしまった。悠斗は驚きが大きすぎたのか、もはや反応が薄くなっている。
「え……? 遥お前さっき帰ったんじゃ……。ちょっと待て、遥ここは病院だ。あんまり大きな音を出しちゃいけないんだぞ」
「知ってるわよ。私もTPOくらい理解してるから……」
そう言いながら水蓮寺は悠斗のむこうずねを蹴り上げ膝から崩れ落とした後に、躊躇なく締め落としにかかった。鈍痛で声を上げる間もなく寝技で完全に落とす。やはり水蓮寺は恐ろしい……。そんなことを考えている間に悠斗の生気は失われていき、水蓮寺から解放されるとすぐにどこかへ逃げてしまった。
「さて……、今日はちゃんと起きれたみたいね。体調は大丈夫なの?」
水蓮寺は、悠斗が座っていた椅子に腰かけると窓の外を見ていた。制服を着た水蓮寺。紫色に変化しかけている外の空。またこの時間か……。俺はまた意識を失わないように息をしっかり整えると、水蓮寺に声をかける。
「大丈夫だ。今、話しても大丈夫か?」
「良かった。ちゃんと覚えてたみたいね。いいわよ、私もそのつもりでここに来てるから。あなたの重大な話、私に話しなさい」
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