第21話 病院で2

 水蓮寺は、俺のことを励ましてくれた。先輩は、俺のことを求めていると示してくれた。もともと自分のために先輩と悠斗の恋愛を破壊すると決めていたのだから、今この瞬間の俺はその決心を固めているはずだ。


 俺は先輩のことが好きだ。それは前からずっと分かっている。でもそれは本当に俺の恋愛感情なのか……? 先輩が俺と悠斗の間で揺さぶられ、自分の気持ちが分からない姿。それが今でも脳裏に焼き付いている。そしてその状況も、今の俺なら少し理解できる気がする。なぜなら俺は……。


「おにい!」


 完全に暗くなった窓の景色から目をそらすと、桐葉が息を切らしてドアを開けていた。俺は近寄ってきた桐葉の上半身を腕で抱き寄せる。桐葉はこの2日間眠れていなかったのか、すっかり疲弊しているように感じた。


「悠斗さんから連絡が来て、急いでここに来たの。良かった……。おにいが私のせいで倒れちゃったんじゃないかって、私本当に心配で………」


 そこまで言うと、桐葉の目からは大粒の涙が零れ落ちた。俺は桐葉を慰めるように、ただ桐葉を強く抱きしめ続けた。


「おにいはさ……。倒れた時のこととか覚えてる?」


「いや、倒れる直前は頭が回らなくて、記憶も曖昧になってる。桐葉は俺になんて言ったんだ?」


「いや、もういいの……。おにいが覚えてなくてもいいことだから……」


 桐葉は悲しげな雰囲気を隠すこともなく、俺はそれを露骨に感じ取る。そしてその雰囲気から、俺はあの夕方の出来事が事実だと再確認した。


 俺は、桐葉に告白された。俺はちゃんと理解していても桐葉には全く伝えない。先輩が好きなら、今ここで桐葉を振ることが正しいことは分かってる。それでも俺は桐葉を振ったりしない。分からない。自分の気持ちが理解できない。


 桐葉と一緒に住み始めた時は、俺は全く何の感情も抱いていなかった。俺が女慣れしていなかったせいか桐葉に対しては目も合わせず、干渉されることさえも避けていた。それでも俺は桐葉との関係を断ち切ることはできなかった。


 階段で初めて桐葉の目を見た時、俺は桐葉に対して何か特別な感情を持った。そして二日前の告白。あの時俺は、こっそりと耳打ちする桐葉と先輩の姿が重なっているように感じた。俺は先輩に持っている感情を桐葉にも抱きかけている。これも異変の影響なのか。どれが偽物でどれが俺の本心なのか全くわからない。どうすればいいんだ。俺はこれからどうすれば……。


「桐葉、迷惑かけてごめんな……」


 桐葉はいつの間にか俺によりかかって眠りに落ちていた。俺は謝罪の気持ちを語りかけながら桐葉の頭をそっと撫でる。迷い考える中の静寂。夜風で冷めたベッドの上に数滴の涙が光を放ちながら落ちていった。

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