第16話 先輩と俺
とりあえず新イベントの方向性が決まったことで、今日の会議はお開きになった。俺が黙々と後片付けをしていると、先輩がそっと近づいてきた。
「今日はお疲れ様。隷属部の人たちは想像以上に凄かったわね」
「まあ、ほとんど水蓮寺のせいですけどね。椅子はここにしまっておく感じでいいですか?」
「うん。一条君も最後まで残ってくれてありがとうね」
「いや、俺が残ったのは……。先輩になんでこのイベントを作ろうと思ったか聞きたかったからです。新イベントと悠斗の件について何か関連があるんじゃないですか?」
先輩は俺の質問を聞くと作り笑いを止め、申し訳なさそうに目をそらした。
「やっぱり一条君は全部分かってたみたいね」
先輩はもう一度俺の方向を向く。先輩の生徒会長としての威厳は、もう微塵も残っていなかった。
「……私がこのイベントを提案したのは、悠斗に告白する場を作るためよ」
「先輩が悠斗に告白したいという気持ちは理解できます。でも俺には、先輩の意図が全く分かりません。学校で告白するということはラブコメのテンプレートで邪魔されるリスクが高いですよね? 他の場所で告白せずに、あえて学校で告白する理由を教えてもらってもいいですか?」
「学校で告白するのはリスクが高いのは分かっているわ。私もラブコメで起こる現象やテンプレートを調べて、学校は告白を妨害する要素の宝庫だということも理解した。そしてそれを自分に言い聞かせてきた。そう……、冷静になればそんなことは分かるのよ……。でも、そんな簡単なことも分からないくらい今の私はおかしいの。学校に来ると悠斗のことが頭から離れなくなって……、好きで好きでたまらなくなって……、本当におかしくなっちゃいそうなの……」
先輩は何度も言葉をつっかえながら、俺に本音を打ち明ける。俺は目の前に現れた先輩を受け止めるのに必死で、黙って話を聞くことしかできなかった。
「これも異変の影響なのかもしれないわ。新学期が始まってから、私もここまで苦しむようになった。今までは何とか抑えてきたけど、もう私は我慢できる余裕がない……」
「つまり突発的に告白して失敗するくらいなら自分で成功率を上げてからのほうが良いと……、そういうことですか?」
「ごめん……、私はこうするしかなかったの……」
先輩はうなだれるように頭を下げる。俺は一歩、先輩に近づいて肩に手を置く。先輩の身体は心細さで震えていた。途端に俺は怖くなる。先輩から感じる陰のような寂しさに、俺は耐えることができなかった。
「……分かりました。でも一人で悩みを抱え込まないでください。先輩は完全に一人じゃありませんから」
「一条君!」
俺が生徒会室を出ようとすると先輩の声が弾けるように響き渡った。背後を振り向いた瞬間、黒い瞳に涙をにじませながら先輩が俺の耳元へ駆け寄っていた。唐突な震え声。俺はただ絶句した。
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