第15話 新イベント会議

 月曜日。俺たちは先輩に言われた通り生徒会室に集合していた。


「今日は集まってくれてありがとう。今回は、新イベントの方向性について話していこうと思います。じゃあまずは新イベントがどのようなものなのかについて説明していきましょうか。私たちの高校には体育祭や文化祭などのように、秋になってからの学校行事は多くありますが、本来クラスの仲を一番深めるべき春の時期には主だったものが一つもありません。そのため、今回5月に新イベントを設立することにしました」


 先輩が長机の真ん中に座り、会議を進める。まだ新イベントは生徒会でも話し合っていないらしく、今日この場にいるのは先輩と隷属部の部員だけだ。先輩は生徒会長らしい淡々とした口調で説明を続けていく。


「しかし、ただ普通の思考で考えていても既存の学校行事と被る部分が多くなってしまいます。そこで、今回は皆さんにどのような競技を行うべきなのか提案してほしいです」


「じゃあなにかやりたいことがあったら手を挙げてくれ」


 俺がホワイトボードに概要を書いた後、悠斗が司会進行を始める。するとそれと同時に水蓮寺が腕を高く上げた。


「はいっ!」


「じゃあ、遥。自分がやりたいことを言ってくれ」


「奴隷競争! 奴隷競争やりたいっ!」


「……他に意見ある人?」


 賢明な判断だ。どうやら悠斗に司会を任せたのは間違っていなかったらしい。水連寺の表情がみるみる曇るうちに桐葉が元気よく手を挙げた。


「はーーい!」


「はい! 桐葉ちゃん!」


「わんこそば食べたいです!」


「えっと……」


「あ、それが無理ならホットドッグ早食いでもいいですよ!」


「ほ、他に意見ある人は……?」


「………………」


 悠斗は助けを求めるように俺を見る。しかし俺は不服そうな顔でこちらをにらみつける水蓮寺に向かって、自分の意見を言う勇気などない。会議の場は静寂に包まれた。


「さて、どうしようか……」


「ちょっと待って! 私と桐葉ちゃんの意見はどうなったのよ?」


「いや、さすがにお前たちの意見は無理があるだろ……」


「黙ってなさい悠斗! 全員の意見を公平に聞かないなんて人として間違ってるわよ! そうよね? 桐葉ちゃん」


「ソウダソウダー! ワタシタチノゲンロンノジユウヲカイホウシロ~」


 水蓮寺がいつものように勢いよく反論を開始すると、それに便乗するように桐葉も声を上げる。悠斗は最後の希望である先輩に想いを託すしかなかった。


「そんなこと言われても、困りますよね……?」


「そうね……。少し私の見解を話してもいいかしら?」


 先輩の威厳のあるオーラはすっかり荒れた議論の場に落ち着きを取り戻した。悠斗はすっかり安心したようで、顔がすっかり緩まっている。先輩は真剣な眼差しで意見を発語し始めた。


「新イベントを設立するとすれば、学校内外からも注目されるでしょう。そこでありきたりの競技を行うのではなく、斬新な内容の競技にすれば、私たちの高校自体のオリジナリティを高める効果が見込めるわ。その流れが確立できれば結果的に高校自体のブランド力も上がるし、先にインパクトのあるイベントを作っておくことで、今後のイベント運営の幅が広がる可能性もあるわね。つまり端的にまとめると…………、二人の意見はアリ寄りのアリってことよ」


 そうか、先輩もそっち側の人間だったか……。男達は完全に心折れて、静かに項垂れる。そのまま会議は、異様なまでに順調に進んでいった。

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