第12話 桐葉と部活3
「ねえ、今日私が来ておにいはびっくりした?」
「びっくりするどころの騒ぎじゃないだろ。まあ、どちらかといえば今の状況の方に驚いてる気がするな」
俺は廊下の曲がり角から首を出して、人がいないか確認する。良かった。今日は人がいなさそうだ。俺はゆっくりと前進を再開すると同時に桐葉のほうへ顔を向けた。
「どうして桐葉は俺と仲良くなりたいんだ? 桐葉は明るくて友達もたくさんいるのになんで俺なんかと……」
「確かにおにいみたいな人と、わざわざ友達にはならないだろうね。今だってめっちゃネガティブだし、いつもめっちゃ暗いし。……でもね、おにいは別だよ。そうじゃないと今日もこんな学校の外れみたいなところにわざわざ来ないから。あ! でもよく考えたら、私がおにいに跨っても、仲良くなるわけないよね。やっぱり私、おにいを奴隷にしたかっただけだったのかも」
桐葉はいつもより長めに話しながら、俺に笑いかける。そんなことをしているうちに、俺達は旧校舎の4階を一周し、隷属部近くの階段まで戻ってきていた。
「じゃあ一周し終わったことだし、部室に帰るか」
「え? まだ終わってないのに帰ろうとしちゃダメだよ。私言ったでしょ? 旧校舎一周だって。次は階段を下りて、3階に行かなくちゃ」
「これは……、このまま行くのか……?」
「当然でしょ? 私、おにいの背中から降りるのめんどくさいもん」
俺が確認すると、桐葉は予想通りの答えを返す。とはいっても……、この状態でどうやって階段を下りるっていうんだ? 見下ろしてみると、階段はまるで崖のような傾斜と高さに見える。四足歩行になるだけで、こうも見る景色が変わるものなのか。俺は危険を感じていったん後ろに引き下がる。
「なに? おにいまさか怖くなっちゃった? どうしてもできないっていうなら、無理してやらなくてもいいんだよ? 悠斗さんと遥さんには、私がちゃんと報告しとくから!」
ここぞとばかりに俺を煽ってかかる桐葉。俺が恐怖に屈すれば、自分自身の尊厳が完全に地に落ちてしまう。ここで落ちた評価を少しは取り返しておかなければ。俺は体を横に向き直し、左手足から慎重に階段を降り始めた。
「おにい、なんか慣れてるね~。まさかいつもこんなことしてたりしないよね?」
桐葉はまた俺をいじってくるが、俺は階段を降りることだけに集中するために平然と無視をする。よし、あと三段だ。俺は左手足を一つ下の階段にかける。すると、手にひんやりとした感触が伝わった。次の瞬間、俺は体勢を崩した。俺と桐葉の身体は宙を舞っていた。
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