第13話 桐葉と部活4
「桐葉!」
俺は反射的に桐葉をかばおうと下に入る。頭と背中に衝撃が走った後、俺の意識は途絶えた。
目を覚ますと、俺の視界は真っ暗になっていた。頭を強く打ちつけたせいでブラックアウトしてしまったのか。俺は仰向けになったまま、手足が動くかどうか確認する。よし、手足に異常はないようだ。左手は少し湿っている。どうやら、掃除をしたときの水分が乾ききっていなかったところで手を滑らせてしまったらしい。
それにしても、視界が全く良くならないな。しかも顔は圧迫されて息が苦しい。……待てよ。圧迫? その時、俺の顔に微かな鼓動が伝わっていることに気が付いた。一気に俺の鼓動も激しくなっていく。
今、俺の顔の前にあるのは桐葉の胸だ。とにかく早く離れないと……! 俺は桐葉の谷間から顔をずらそうとする。しかし、その瞬間、俺の顔面への圧迫はさらに強くなった。
「おにい……。目を覚ましたの……?」
ほのかに甘い匂いを漂わせる制服から視線を上げると、俺を大人びた表情で見つめる桐葉の顔があった。少し恥ずかしそうにしながらもこちらに優しく微笑みかけてくる薄紅色の瞳に、平均よりもはるかに整った顔立ち。俺が桐葉の顔をまともに見るのは初めてか……。俺は口元の柔らかな圧迫感を忘れて桐葉の顔に見入っていた。
「やっと私のこと見てくれたね。私もちゃんとおにいの顔が見れて良かった……」
そう言うと、桐葉は俺を胸から解放した。お互いに視線を合わせてただ黙っているだけなのに、この時間がとても尊く思ってしまう。俺は桐葉になんとか話しかけようとするが、全く言葉が出てこない。結局、次に俺と桐葉が聞いたのは、轟音に駆けつけてきた水蓮寺の叫び声だった。
「桐葉ちゃん。本当に大丈夫? どこか痛いところとかは無いの?」
「大丈夫です。遥さん心配してくれてありがとうございます」
「一条! アンタがちゃんとしないからこうなったのよ。最初の依頼人がケガでもしてたらこの部活自体なくなってたかもしれないんだから!」
部室に戻っても水蓮寺は桐葉をとても心配しているようで、その反動で俺に対しては更に態度がきつくなっていた。しかし俺の脳はついさっきの出来事で完全に覆われているせいか、水蓮寺の文句は全く頭に入ってこなかった。
「いや……、おにいに無理やり階段を降りさせたのは私なんで……。おにいは悪くないです。あと遥さん。私、言いたいことがあるんですけど……。いいですか?」
「ええ、別に大丈夫だけど……。なにか嫌なこととかあった?」
俺を含む全員が桐葉の少しうつむいた顔に注目する。特に水蓮寺は額から汗がにじむほど緊張しているようだ。数秒後、桐葉は重くなった雰囲気を打開するような大きな声を張り上げた。
「私……、隷属部に入部したいんです!」
再度、静まり返る部室。水蓮寺は桐葉に静かに近づくと桐葉の両肩を乱暴に揺さぶり出した。
「桐葉ちゃん! あなた本当に大丈夫? 頭打っておかしくなっちゃったんじゃないの⁉」
水蓮寺、お前だけはそれを言っちゃダメだろ……。俺は呆気にとられながら、脳内で水蓮寺にツッコミを入れたのだった。
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