第8話 創部3
「待ってください! なんで隷属部が承認できるんですか? 人数も少ないし、名前は変だし…………。先輩もどうかしてるんじゃないですか?」
「いいえ、私は決して気がおかしくなんてなっていないわ」
「じゃあどうしてこんな狂ったような部活動を……」
「確かに以前までの承認基準だったら、確実に却下されているような案件でしょうね。でも今は違うわ。一条君、あなた去年に一度生徒会室に来てるわよね? その時と比べて今の生徒会室はどう?」
先輩に聞かれて、俺は改めて生徒会室を見返す。言われてみれば、去年まで生徒会室はこんな感じではなかった。内装は重厚感を感じる豪華なものになっているし、去年までパイプ椅子だった生徒会長の席も社長が座るような高級なものになっている。
「今年度になってから、生徒会の権限は前とは比べ物にならないくらい強くなったわ。予算もいくらでも使えるようになったし、学校内のことに関しては教員会議やPTAに口出しされずに、なんでも自由に決められるようになった。つまり、生徒会長の私が良いと言えば、どんなにめちゃくちゃな部活動でも反対してくる人はいないってことね。おそらくこれも異変の影響だと思うけど……」
なるほど、そういうことか。俺は非常に論理の通った先輩の説明に深く納得する。確かに学園ラブコメの生徒会は、教育委員会に張り合えるくらい強力な自治権を持っていることが多い。それを使えば、こんなめちゃくちゃなこともできてしまうのか……。深い思考の渦にはまり、俺は生徒会の権力について考察しようとする。しかし、その前に先輩は咳払いをして俺の意識を引きつけていた。
「一条君は、あの二人と同じ部活動に入ることで二人の関係性をチェックしてくれようとしたんだよね? それで、おそらく水蓮寺さんが隷属部を作ろうとした」
「はい、その通りです。水蓮寺が隷属部じゃないとダメだって聞かなくて」
「隷属部を承認しなければ、二人の関係を観察してもらうという私の目的も達成できなくなるでしょ? だから私は私自身のために隷属部を承認するわ……。でもね、一条君……。確かに一条君が二人を観察してくれたら私は助かるけど、何で……、どうして一条君はそこまでして私のために動いてくれるの?」
「俺も悠斗のことが気になるからって言ってるじゃないですか。今のところあいつが異変の中心にいるんですから、あいつをよく調べれば異変を元に戻せるかもしれないし。あ、でももちろん先輩のためでもありますから、心配しないでください」
俺はぎこちないながらも笑顔を浮かべる。先輩は他に何か言いたそうだったが、俺よりも数段輝かしい笑顔で応えてくれた。
「そっか。でも一条君、私に気を遣わないでね。やめたかったらいつでもやめていいから」
先輩からの優しい言葉。俺は軽く礼をして、形式的にはその言葉を受け入れたようにふるまう。しかし、俺の心の中は行動とは正反対に黒々としたやる気が燃え上がっていた。絶対やめるわけがない。やめるはずがない。先輩には隠した強い気持ちを自分一人で噛み締めながら、俺は黙って生徒会室を後にした。
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