第9話 俺が破壊したいもの
俺も、自分に何のメリットもないようなことを自ら進んでやるお人好しじゃない。俺が先輩が望むとおりに動き、悠斗と水蓮寺を観察しようとしているのにも当然理由がある。だが、それを先輩に言うことはできない。
俺はしばらく無言で歩き、二人が待つ空き教室に戻った。
「……隷属部の承認通ったぞ」
「やったー! ね、だから私言ったでしょ? ほら二人共今すぐ私に謝りなさい」
「本当か? 一体生徒会はどんな考えで……」
目に見えて大喜びする水蓮寺と、俺と同じように困惑する悠斗。俺はこれから二人を利用しなければいけない。激しい自己嫌悪が心の中で沸き上がる。
「じゃあ、申請も通ったことだし。今日はもう帰りましょう。二人共、明日来なかったら絶対許さないからね?」
「はい、はい……。じゃあ一条、俺達は先に帰るぞ。」
俺は二人を見送ると、そっと教室の扉を閉めた。ゆっくりと椅子に腰かけて自分が新たな一歩を踏み出したことを実感する。俺が自分自身のために踏み出した一歩はとても重く、恐怖しか感じなかった。
俺は先輩と、一緒に悠斗と水蓮寺の恋愛関係を破壊すると約束した。だが、俺はそんなことをするつもりはない。俺が破壊したいのは……、悠斗と先輩の恋愛関係だ。
俺は先輩のことが好きだ。異変が生じる前は、ただただ先輩に憧れていた。あの頃は先輩を自分のものにしようなんて考えたこともなかった。
しかし、今は違う。俺が予測した通り、この世界が悠斗が主人公のラブコメに変わったのなら、俺は先輩を手に入れることができるかもしれない。ラブコメで負けたヒロインは主人公以外の男とカップリングされることが多い。つまり、先輩を負けヒロインにして俺が悠斗の主要な関係者になればいい。そうすれば……、俺はあの先輩と………。
いつもと同じ結論に辿り着いた瞬間、俺の脳裏には笑顔で悠斗への好意を告げる先輩が現れた。このまま先輩に協力して上手くいかせれば、きっと先輩はあの時以上に明るく悠斗に笑いかけるんだろう。それがこの世界が俺たちに望んでいる結末なのかもしれない。でも…………。
嫌だ。俺は先輩を手放したくない。俺は自分を犠牲にして主人公の幸せを願うだけの脇役にはなりたくない。必ず、二人の関係を破壊する。
「もう、引き返せないんだ」
俺はそう呟いて、暗くなった教室を後にした。
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