第10話 NOEAへようこそ
それから一年が過ぎた。
ブロウィン空港が開港し、フリーホイールの街は活気付いた。
メインストリートの新しいアスファルトの道路を車が行き来した。
改装したホテルも賑わった。
タクシー、レンタカー、働き手も増えた。
情緒ある一番街二番街も客を呼んだが、何より八の二番街の新築デパート
ニックはNOEAのテナントを見て回る。
有名飲食店、ファーストフード店、SUSHIBAR。
ホームリビングコーナー、ブランドの服飾・雑貨店。
店員にのせられてカジュアルな服やブーツを買うニック。
行き交う客の波に紛れ二階三階とうろつき、また一階へ。
旅行案内所の派手な宣伝、ペットショップも目新しい。
――犬の服だと? こんな水玉着せられて、犬は喜ぶのか? ……と顎をさすりながらベーカリーの前を過ぎるニック。
焼きたてパンか……。
そして外へ出て、車の多さにあらためて
珍しさで州外から来る買い物客もかなりいると見た。
オルソン・エンタープライズの会長ディック・オルソンは、息子のニックとNOEAの状況を電話で話す。
《どうだ? ニック。黒字経営の方は》
――ギリギリのとこを、何を皮肉るクソ親父。
「ふっ。まずまずさ。だが物流コストがかかる。やっぱり不便なド田舎だ。もっと道路を整備してもらわなきゃ。あとは駐車場も」
《向かいの場所はまだ手こずってるらしいな?》
「……ああ。一人」
《パン屋の男だろう? そいつは今、病院に厄介になってるそうじゃないか》
「そう。だからそのうち手に入る」
《早くしろ。そこはお前に任せると言ったが、これ以上は予算オーバーだ。もう待てんぞ》
****
ビンセントはわかっていた。
自分の死期ぐらい、診てもらわずともわかっていた。
吐血して、病院に運ばれた。
末期の癌だった。
ずっと前からわかっていた。
退院して、ビンセントは店をたたんだ。
向かいに
とっくに看板を下ろした隣りの花屋の主人とも、金物屋の親父とも、もう長く会っていない。
裏の市営アパートもいよいよ取り壊されるという。
朝日の当たらなくなった家を、トムとアルフレッドはとても寂しがった。
誰も来なくなったパン屋の影を、ビンセントは悲しく見つめた。
九月の涼しい朝。
ビンセントは机の引き出しから一度揉みくしゃにした名刺を取り出し、広げた。
それはニック・オルソンの名刺。
酷く咳をしながら杖を置き、ゆっくりとロッキングチェアに腰掛ける。
小さく歪んだ番号をなんとか読み、受話器に手を……。
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