開戦!小田四天王vs餃子
「えっと、餃子の包み方ですが簡単と言えば簡単です。よく、見ていてくださいね」
カチカチに固まりながら、あたしは氏治さまと四天王の前に立つ。
人前に立つのは苦手なのに、何でこんなシチュレーションにばっかり最近なるんだろう。
戦前の演説よりはまし問おうか、今の方か緊張するのはなんで!?
餃子づくりのプロでも何でもないのに、戦国武将たちに包み方を教えるなんて想像もしてなかったかもしれない。
相手の立場もだけど、この時代の日本に餃子なんてものはない。
だから、今からみんな伝える餃子が日本のザ・スタンダード餃子になるってこと。
餃子は元祖、本家、家本、雫澄ってことだ。
あたしので、大丈夫かな。
「えっと、まず皮を手に取って。餡を皮の真ん中に乗せます。あんまり入れすぎると、包めなくなるので注意してください」
とはいえ、このまま固まっていても皮も具もダメになっちゃう。
いつもの作り方を意識しながら、用意してもらった匙でぴょいと皮の真ん中に乗せる。
父親はあたしの作るぎょうざが、具が少ない!って大嫌いだったけど、お母さんは食べやすいって喜んでくれたっけ。
なんだか、いろいろ思い出しちゃうな。
「で、あとはちょっと指を水を濡らして縁にすっと軽く塗って。あとは、こうやってひだを作って行って――」
「おお……」
ひだを作っていくと、5人から驚きの声が上がる。
いや、これって特別な事でも何でもないんだけど、そんなに驚く事かな?
ちょっとした気恥ずかしさもあるけど、手は慣れたもの。
ひょいっと、あっという間に可愛い餃子が出来上がった。
「はい!これで包むのは完成です。あとはそこのふらいぱんという鉄鍋で焼いたり、鍋で煮たりすれば完成です」
「さすが、見事な手さばきですな」
「ほぉ、これは面白い形をしています」
政貞さまと平塚さまは、出来上がったものを感心した様子で見つめ、
「我にできるだろうか?」
飯塚さまは、若干不安そうにし
「がはは!これくらいなら朝飯前よ!」
氏治さまは、謎の自信に満ち溢れていた。
うん、全員のキャラに見合った反応で面白い。
「うむ!では、次は我々の番じゃ!皆、澄から技を習い、家や領地へ伝えるのだ!」
「ははぁ!」
「では、澄!指南役、頼むぞ」
「はい、仰せ付かりました」
緊張もあるんだけど、みんなと何かをするっていうのがあたしには楽しくて笑顔になっちゃう。
だって、それは500年前あたしから奪われて、手に入れることができなかったものだから。
* * *
「へぇ……」
氏治さまに指南役として指名されたあたしは、四天王と氏治さまが餃子を包むのも見守っていた。
あたしも包みたいんだけど、まずはみんなにやってもらうことを優先した。
いちいちこうですよー、ああですよーってやってしまってもいいんだけど、それじゃ皆覚えないしね。
四天王の包み方レベルは、ちょっと予想と違っていた。
「ふむ、なんだか楽しくなってきましたね」
一番上手いのは、平塚さま。
丁寧というかあたしの動きをマネして、忠実に作っている。
小田城攻めの時に、あたしの策を忠実に実行した平塚さまらしいと言えばらしいのかも。
「うむ、なかなか。この歳になると、なかなかあたしい基に挑戦ということもないですからね」
次が天羽さま。
コツをつかむのにちょっと苦戦してるみたいだけど、非常に丁寧。
まさか料理本を読んでるとは思わないけど、頭の中の知識が役立ってるのかも。
「むむ、なかなかうまくいきませぬな。こういう細かいものは苦手だ」
苦戦中ながらも形が整っているのが、飯塚さま。
怪我の影響もあるんだろうえけど、結構苦戦してるみたい。
飯塚さまは猛将って感じだし、申し訳ないけど餃子づくりは合わない感じがしたからイメージ通り。
でも、不格好ながらも形にはなってるからこのまま焼いたりできそう。
「これは、どうすれば……」
で、一番下手で目の前で困り果ててるのは意外にも政貞さま。
そう、手先が不器用ってレベルじゃない。
ひだの送り方はいまいちだし、とにかく不格好で皮も閉じられてない。
本人は一生懸命やってるつもりなんだけど、みんなのを見ると明らかにぶちゃいくな餃子が出来上がっちゃってる。
何でもそつなくこなす印象があったから、これは意外な一面を見ちゃった気がする。
餃子づくりに苦戦する小田家の名将菅谷政貞さま、なんかかわいい。
「す、澄殿……何か手立てはありませんか?」
「えと、じゃあ、ちょっと皮の包み方を変えてみましょう」
困り果てた政貞さまが、助けを求めてくる。
うん、ここは簡単な包み方を教えてあげよう。
必死に頑張ってるのにうまくいかないなら、別の方法を試すのが定石だもん。
「別なものもあるのですか?」
「はい。まぁ言ってしまえば皮なんて包めればいいんです。さっき教えたのは、出来上がりの形も考慮してのことですから」
「確かに、両方とも納得いきますな。包めれば役目は果たせるが、形が美しい方がやはり雅というもの。目でも、楽しめますからな」
頭の回転が速いなぁ、政貞さまは。
余計な説明が省けるのは、本当に助かる。
「さすが政貞さま、そう言うことです。では、簡単な包み方を」
「お願いいたします」
「まず、真ん中を先にくっつけてあとは左右を抑えるんです。これなら、しっかり皮の役目は果たせます」
「おお!これなら!」
政貞さまは嬉しそうに頷き、次からはその包み方に変えるとすぐにいい感じに量産を始めた。
やっぱり四天王のまとめ役っぽいところはあるし、このままでは立つ瀬がないって想いがったのかも。
「澄殿は、色々知っておあられるのですね」
「これは、あたしが母に最初に習ったものなんです。幼いあたしにはひだ送りなんて、無理でしたからね」
あの時は幼稚園とかだったから、ひだ送りなんて無理。
その時から餃子好きだったあたしは、一緒に作ろうって言われてうれしかった。
頑張ってお手伝いしよう!って思ったんだけど、ぐちゃぐちゃになって半泣き。
上手くできないし、これじゃダメだ。あたしは役立たずだって。
でも、諦めるのもできなくてなんとかやって中で教わったのがこの簡単な包み方だった。
「澄殿の家は、きっと良い家なのでしょうな。澄殿のような立派な方が、育つのですから」
「そうですね。でも、今は小田家だけがあたしの家ですから」
ズキンとした胸の痛みを感じながら、あたしは貞政さまに無理やり笑顔を返した。
――あたしの家はそんな事なかったですよ。例えるなら、針の筵です。
そんなこと言ったら、この和やかな空気が壊れちゃうのが怖かったからに他ならなかった。
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