氏治、小田四天王を召喚し高らかに笑う
「あの、氏治さま、何言ってるんですか?」
この領主さま、一体何を言ってるんだろう。
冷静に考えても、冗談にしか思えない。
平塚さまは、小田城奪還戦で負傷中。
飯塚さまは、領地に帰って領内の管理と休息中。
政貞さまは土浦城主として様々な仕事をこなしていて、天羽さまも自分の領地の運営をしているはず。
まさか、あたしのワガママである餃子づくりのために小田城に来るはずが――。
「氏治さま、これはどういうことでしょうか?」
聞き覚えがある、聞こえるはずのない声がなぜか聞こえた。
まさかと思って声の方を振りかえると、そこには4人の人物。
平塚石見守さま、飯塚美濃守さま、天羽源鉄さま、菅谷政貞さま。
小田四天王がそろい踏みしていた。
「重要な用があると来てみれば、澄殿と一緒とは」
「私は火急の様と申されまして、はせ参じたのですが」
「私のところには、早馬が来ましたな」
みんなの言葉に、頭を抱えて蹲った。
ああああ!もう全員怒ってるよ!
っていうか、人手がいないからってなんで四天王を餃子づくりに召喚するの!
この人たちは武将で、料理人じゃないし、あなたのびっくりドッキリお助けメカじゃないんだよ!
「みなさん、ごめんなさい……これはあたしのワガママなんです」
ここは仕方ないと思って、思い切って頭を下げる。
そもそもはあたしのワガママで始まった餃子づくりだから、最終責任はあたし。
あたしから理由を話さないと、どうにもこうにもならない。
「澄殿が?」
「わ、わがまま?」
「殿ではなくて?」
「どういうことでしょうか?」
「わしからも、訳を話そう]
あたしが頭を下げたことに戸惑う四天王に、氏治さまがあたしの隣に立って口を開く。
「澄が疲労しておったのは、皆、知っておるか?」
「はい。ですが、休めば大丈夫と聞いておりました」
平塚さまの言葉に、間違いはない。
『疲れてるのは確かだけど、休めばなんとかなりますよ!』
そんな言葉を、みんなに繰り返してたんだから。
「その原因は、食べ物にあったのじゃ。ただ、休めばよいというものではなかったのじゃ」
「しかし、毎日の食事はしっかりとっておったのでしょう?」
「故郷の味がどうしても食べたくなった。そうじゃな、澄?」
「あ、は、はい。実はもうご飯を食べても元気が出なくて、氏治さまに何とかならないかと相談したんです」
氏治さまが上手くフォローしてくれたので、あたしは何とか言葉をつづけた。
まさか500年先のご飯なんて言えるはずもないから、この誤魔化し方が最善だよね。
ありがとう、氏治さま。
「なるほど、澄殿の故郷の味とこちらの味や食べ物は違うのですな」
「医食同源とも言いますし、口に合う食事は大切でございましょう」
「澄殿が倒れてしまっては、皆が心配してしまいます。しかし、我らが手伝えるか不安はありますな」
「刀や府では握ったことがありますが、料理などしたことがありません」
理解してくれる人と不安を持っている人が、半々って感じ。
うん、確かに役に立てるかは不安だよね。
手伝いたいって気持ちはあるんだろうから、ちょっとだけでも手伝ってもらうにはどうしたらいいんだろう。
「確かに不安であろう。しかし、これはお前たちのためでもあるのじゃぞ」
「私たちのため?」
「はい。この料理は恐らく、小田のだれもが知らないもの。皆さんが領地に伝えることで、領民の食生活の改善ができるかもしれません」
「改善ですか?」
「はい、小田城下の村の食事を見聞きしたのですがお粥ばかり。これでは飽きてしまいますし、水が少なくなった時には大変です」
みんなの疑問に、あたしは冷静に答える。
これは、あたしがちょっと考えていたこと。
実は今回の試作がうまくいったら、作り方を領内に伝えようと思っていた。
今の領民のご飯は戦に出ればちょっと変わったものは食べられるけど、お粥一択。
毎日代わり映えしないご飯じゃ飽きてしまうし、戦だってそう。
お粥は少ない量でお腹は満たせるけど、なんかそれだけじゃ面白くない気がする。
今回は焼き餃子と水餃子を作るから、お粥の代わりに水餃子っていうのありかもしれない。
それに伝えることで小田領に合った、新しい餃子が出るのも期待したいってのもあるんだけどね。
「それに、戦の時の料理として出せるかもしれません」
あと焼き餃子なら水は、皮づくりは別として調理時の水は少なくて作る事が出来るかもしれない。
戦で水は貴重だから、焼き餃子とかスープ餃子はありかもしれない。
だって、ドーンって雑炊だとなんかどうかなってあたしは思っちゃうし。
「そう!これは決してわしが澄の言うものが食べたいが疲れて作れないいと困るからではない!」
なぜかご当主モード―になり、きりっとした視線をあたしに向ける氏治さま。
でも、どう見てもギャグにしかなってないんですが。
「今後の小田家のためを思って、お主らを呼んだのじゃ!」
がははと胸を張って笑う氏治さま。
だけど、拍手やほめたたえる言葉の一つも周りからは起きなかった。
――そんなことないだろ(でしょ)。
って、言葉を胸に秘めたままあたしたちは、その姿を静かに見つめていたんだから。
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