澄と氏治、小田餃子製作を開始す

 氏治さまとの小田餃子プロジェクトが始まってからは、毎日が楽しかった。


 勉強の合間に氏治さまは常に仕入れ状況とか教えてくれてるし、あたしも明確な楽しみがある事で日々の生活にメリハリがついた。


 政貞さまから平塚さまに代わった武術の稽古もへろへろだった剣の振りがまっすぐになり、天羽さまからの軍学の授業もするする入るようになって褒められた。


「澄!ふらいぱんとやらが出来上がったようだぞ!」


「やった!これですべてめどが立ちましたね!」


 ある日の午後、氏治さまがウキウキした声であたしの家にやってきた。


 フライパンのイメージだけを伝えるかなり無茶苦茶な依頼を小田領内の鍛冶屋さんにしたんだけど、何とかなったらしい。


 千歯扱きに続いて、小田領内の鍛冶屋さん仕事早くない?


「これでどうじゃ?」


「わわ!さすがに重いですけど、うん!大きさも深さもいい感じです!」


 氏治さまが持ってきたのはまさにフライパン!っていうもの。


 全部鉄でできてるから振るうには重いけど、餃子を役には十分。


 ついでに木で蓋が付けられるようにしてもらったから、ばっちり!


「うむ!エビもニラもカブの葉も問題ない。油は苦労したようじゃが、なんとかなったしな」


「なんか、小田家みんなを巻き込んでしまいしたね」


「気にせずともよい。皆、澄の為ならと喜んで協力してくれたぞ」


 氏治さまの暴走と言えばそれまでなんだけど、配下の方々みんなに材料の提供をお願いしたらしい。


 命令じゃなくて、お願いって辺りが氏治さま。


 内陸の配下の方からはお野菜が、水運をつかさどる政貞さまからは集まりにくい油と海老が集まった。


 それとびっくりしたのが、醤油が手に入った事。


 無理かなーって思いながらもリストに入れておいたら、まさかの醤油樽ゲット!


 醤油はもしかしたらまだないかもと思たったんだけど、これは嬉しい!


 これは、料理の幅が広がること間違いなし。


 あと今回の副産物として、小麦用の石臼とフライパンもできたのはラッキー。


 フライパンは今後、パエリアやピラフに使えるかもしれない。


 餃子は、いつの間にかそのテストも兼ねることになった。


 石臼は穀物を粉にすることで、今後役に立つだろう。


 うーん、道具はやっぱり便利だからこまめに作っていった方がいいな。


「では、明日にでも作りましょう!」


「うむ。今ならエビも間に合うだろうから、わしから収めるように伝えておこう」


 ああ、ついに餃子が食べられるんだ。


 皮づくりは大変だし、餡はうまくいくかわからないけど工夫していけば何とかなる。


 今から想像するだけでも、わくわくが止まらないなぁ。


「澄、楽しみじゃな」


「楽しみにしててくださいよー!500年先のあたしの大好物!」


 すっかりテンションの上がってしまったあたしは、ウキウキで氏治さまに笑顔を向けた。


 頭の中は、まだできてない餃子ですっかり埋め尽くされていたのだった。


 * * *


「よ、よし。で、出来た……」


「なかなかな力仕事なのじゃな……」


 翌朝、あたしと氏治さまで具と皮を作り終えた。


 具の方は問題なくザクザク刻んで混ぜるだけ。


 エビもプリプリで、スーパーで買ったら結構いいお値段がしそう。


 そんな中、一番苦労したのが皮。


 使った小麦粉の関係か分かんないけど、かなりこねるのに力が必要なものができちゃった。


「粉のせいか、皮がもっちもちです。これは、氏治さまでも大変だったと思います」


「いや、澄とぎょうざの為じゃ。とはいえ、疲れたな」


 粉は強力粉みたいな感じで、かなりももちもち。


 最初はあたしがこねようとしたんだけど、ギブアップ。


 氏治さまにかわってもらったんだけど、それでも結構大変だったみたい。


 それをちぎって伸ばしてっていうのを二人で分けたんだけど、それも数があって結構疲れてしまった。


「え、えっと、具を包むのもあたしたちでやるんですよね」


 思わず頭に巻いてあった手拭を取って、汗をぬぐった。


 お試しとはいえ結構な量の餃子を作ることになりそうだけど、まさか手伝ってもらえるとも思えない。


 でも誰かと一緒に包むのって楽しそうだし、氏治さまとならいいかな。


「甘いぞ、澄」


「へ!?」


「こんなこともあろうかと、頼れる者たちを呼んでおいた!」


 助かるんだけど、一体誰?


 氏治さまの知る中で、料理が得意そうな領民の方でも連れてきたのかな?


「小田家四天王じゃ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る