第8話 帰ってきた父

父が単身赴任から帰ってきた。まあ、二週間に一回くらいの頻度で来るので、


「お父さん!会いたかったよ!」


みたいな感じにはならず、


「ただいまー」


「お帰りー」


くらいの軽さである。


父が家に入ると、空気が変わる。物理的に。臭いのだ。彼の靴下から出てくる臭いが。


ギャグマンガだと思った方、不正解だ。


本当に臭いのだ。母さんがシャワーをすぐに勧めるくらいに。


そして彼は浴室へ入る。この間わずか五分。

臭いはまだ残っている。彼の靴下がついた床から臭うからだ。


でも、それは彼がそれだけ働いたという事だ。口に出して攻める者はいない。


「(彼の妻、つまり僕の母)ー大好きだ!」


浴室から彼の声が聞こえてくる。うるさい。これだけ聞けば、


(愛妻家かな?)


程度で済むかもしれない。


しかし、それを『公共施設の側』でも叫ぶ彼は、一体何なのだろうか。ただ叫びたいだけなのか、それとも皆(他人)に注目されたいのだろうか。


そして、叫ぶ頻度が多い。


今日など彼が浴室にいる間に少なくとも二度は聞こえてきた。トイレのなかでも洗い物してるときも叫ぶのだ。


そして今日の食事の時、彼は舐めたのだ。皿を。


まあ、そうしたくなる気持ちはわからんでもない。母さんの作るご飯は美味しいから。そして、食べ残すのはよろしくないから。


ただ、それを洗わされる側から見れば、


(やめろオオオオオォ!)


となるのである。


そして食べ終わって、僕が洗い物をしていると、彼がその皿を持ってきて、蛇口から出る水で軽く流した後、


「ジョボボボ………」


別の食器にかけたのだ。


(ギャァァァァァァ!)


庭の植物にやれよ!


と思ったが、節水の方法としてはかなり合理的なやり方なのである。これが地球を守る事になるのだろうか。


なんだろう、やってる事と目的がちゃんと繋がっているのに、僕は拒否反応が出る。


やはり、人間は汚い物は嫌なのだろうか。

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ただの日常の切り抜き waissu @waissu

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