第6話 夕飯にて
学校から帰って夕飯を母さんと二人で食べているとき、母さんが切り出してきた。
「あんた塾入れてもらった方がいいんじゃない?」
またその話か。
「嫌だ。」
「でもあんた、『オンラインのやつはときめかない』って言ってたじゃない。」
「確かに、オンラインのやつはときめかない、でも、塾に入るのもときめかないと思う。」
塾は恐ろしい。僕は小学六年生のはじめから、中学一年生の頭までとある塾に入っていた。
そこで先生が成績の悪い人にめちゃくちゃ怒鳴るのを見て、豆腐メンタルな僕は怒られないように必死で頑張ったのを覚えている。
丁度受験シーズンだったことも原因の一つかもしれない。途中からテストがゲームのように思えてきて楽しくなったので、震えていた時期は短かった。
それに世の中の全ての塾があれだとはあまり思っていないが、できる限り避けたい。あれは怖いものランキングトップエイトくらいには入るだろう。
「でも、あんた暇でしょ?部活も太鼓も休みなんだし、入ってみたら?」
言い返してみるか。
「なら、部活や太鼓が再開したら、塾をやめてもいいんだよね?」
「じゃああんたは塾に入るの?」
もう一押し!
「質問に答えて。」
「いいわよ。それなら塾に入るの?」
何ぃ!失敗した。しかしこっちには自分の意思というアドバンテージがある。
「嫌だ。」
「そう……」
諦めてくれたようで何より。
『ピーッピーッピーッピーッピーッピーッ』
洗濯機がなった。目と目が合う。僕はすぐ席
を立って洗濯機に向かって走り出した。そして蓋を開けて洗濯物を取り出し、かごに入れてベランダの方へ持っていった。
なぜこんなことをしたかというと、我が家独自のきまり事があるからだ。
それは、「洗濯物を洗濯機から取り出してかごに入れてベランダに持っていかなかった人が洗濯物を干す」というしょうもないもの。
だけど、二人とも洗濯物を干したくないので、一種の戦いとなる。
このルールが成立してしばらくは、親子共々禁じ手紛いのことをやっていた。ねこだましで怯ませたり、洗濯機がなる十分前から洗濯機の前で待機してたり、もうむちゃくちゃ。
ベランダから戻った僕はキメ顔で、
「後は、頼んだ。」
そして食事を再開する。
親に勝った後の飯は美味い。
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