第2話 多くの物を失った辛い日々



 数日後。

 社交会に出た時、私は周囲の者達から陰口をたたかれる事になった。


「ねぇねぇあの子、死神の使いだってさ!」「えーっ、気持ち悪い!」「自分で殺してるんじゃないの?」「自作自演よ! きゃー、怖い!」とひっきりなしに悪口を言われる。


 誰も話しかけてくれなくなったし、友達だった者達も近づいてきてはくれなくなった。


 外に出歩いた時は、子供達から石を投げられる事もあった。


 子供の悪意は、無邪気で残酷だ。

 打算も何もないからこそ、心に深く刺さってしまう。


 その純粋な悪感情が向けられるたびに、私は怯えなければならなくなった。


 結果、疑心暗鬼になって、家族ですら信用できなくなり、部屋に引きこもる日が多くなった。


「私、もう外には出たくないわ。誰も話しかけないで、放っておいて! そうっとしておいて!」






 けれど、いつまでたっても、そのままでいられるわけがない。


 身の回りの世話をするために、メイドと顔を合わせる事は必須だったし、部屋にはトイレもお風呂もなかったから。


 そんな私に、家族は根気よく私につきあってくれた。


 毎日部屋の前に来て、色々な話をしれたり、励ましてくれたり、プレゼントや食べ物をおいてくれた。


「大丈夫、もうあなたを悪くいう人なんていないわ」

「そうだ。安心して外にでればいいんだぞ」

「お姉様、お外には楽しい事がいっぱいよ」


 彼らは決して無理に私を引っ張り出そうとしなかった。


 私が立ち上がるまで数年かかったが、その間ずっとゆっくりと待ち続けてくれた。


 そんな彼らの想いを受け取った私は、勇気を出す事にした。


「お母様達のためにも、克服しなくちゃ」


 意を決して外を出歩くようになった私は、人付き合いの場にもだんだんと顔をだすようになった。


 人の噂なんて、すぐに消え去ってしまう。


 そんな言葉があるけれど、その通りだった。


 誰も、私の目の事なんて話していなかった。


 それからの私には、友達もできた。


「フィア様って呼んでいい? 一緒にお話しましょう」


 話し相手に困る事はなかったし、婚約相手だって現れた。


「フィア嬢、これから長い付き合いになるけれど、お互いの家の為によろしく」


 死が分かる人間がいる、なんて噂はとっくの昔に消えていたようだ。


 おそらく噂をしていた者達は、本気で信じていたわけではなかったのだろう。


 だから、皆は飽きて、喋らなくなったのだ。


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