第3話 再び失った多くの物



 このままずっと平和な日々にいられるなら。


 そう願っていたけれど、私の幸せは唐突に壊された。


 きっかけは、婚約者の屋敷で働いている使用人。老齢の男性の死を見てしまった事だ。


「ようこそおいで下さいました、フィア様。シンフォ様も喜ばれる事でしょう」


 彼の周りに死神が見えた時に、愕然としてしまった。


 環境が変わったから忘れていたが、私の目の力はなくなったわけではないのだ。


 けれど、婚約者を支えるのが役目だと思ったから、私は精いっぱいその人を守ろうとした。


 落ち込んでなんていられないと奮起し、何が原因になるのか探って、一生懸命対策を考えた。


 近辺で問題になっている野犬に襲われるのか、それとも巷を騒がせている病で亡くなるのか。


 危険な動物の目撃情報はないか、屋敷で働く者達の健康状態は大丈夫か。


 一つ一つ調べながら可能性をつぶしていった。


 しかし、彼を救う事は叶わなかった。


 突発的に起きた殺人事件が原因だったからだ。


 血だまりに沈む彼を見て、悲しむ婚約者を見た時には、胸が押しつぶされそうだった。


 けれど、それだけなら、まだ悲しい出来事ですんだだろう。


 辛い事だったが、世間ではよくある事。


 貴族界では珍しい事だったが、一般的にはありふれた事だったからだ。


 けれど、死の連鎖はまだ続いてしまった。


 二人目、三人目と婚約者の屋敷で働いている使用人達が死亡していってしまった。


 そのどれもが、殺人だ。


 私はそのたびに彼等をどうにか守ろうと頑張ってきたが、誰も守れなかった。


 どんなに予想を立てても、それをすり抜けるかのように犯行が行われてしまう。


 まるで、私の頭の中が誰かに盗み見られているかのようだった。


 犯人は、私と同じように特別な力でも持っているのではないかと思った。






 身近な人が次々と亡くなってしまう。


 そんな悲しい事が続いたものだから、私はとうとう一人で抱えきれなくなった。


 だから、両親や妹に相談して知恵を貸してもらおうと思った。


 そう思っての行動したのに。


「フィア様か。あの方が死の使い。いやね、怖いわ。私も死の宣告を受けたらどうしましょう」

「死が分かる人間なんて、聞いたことないぞ。自分で殺してるんじゃないか? どうせ自作自演だろう。早く捕まってしまえばいいのに」


 なぜか私の目の噂がまた広まっていた。


 それに伴って昔と同じように、周りの人から遠巻きにされてしまう。


 それは婚約者であるシンフォも例外ではなかった。


「これ以上、変な噂が立っている君を婚約者にしておくことはできない。申し訳ないが、婚約はなかったことにしよう」


 相手からそう言われて、交わしていた結婚の約束がなかった事にされてしまった。


 不幸な出来事は、それだけではない。


 想像以上に噂が肥大化していって、身に覚えのない罪を多く擦り付けられていた。


 どうせ犯罪者だから、他の事もやっているのだろう。


 もっと大きな悪事に手を染めているのだろう。


 そんな人々の思い込みが、私を追い詰めて言ったのだ。


 結果私は、濡れ衣を着せられて牢屋に入れられる事になってしまった。


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