回想 魔女と龍の会話

「1000年振りとでも言えば良いのでしょうか、ニーズヘッグ。」


「お前とは初めてだよ。何体目だ、魔女ムーラン・ルージュよ。」


「もう数える事すら馬鹿らしくなったわ。私の意識も混濁していて、もう限界なのでしょうね。」


「醜悪な事をするからだよ。万物は灰から生まれ灰に帰る。それが定めだ。」


「今日はお別れを言いに来たの。もうすぐ私本来の意識も魔女ムーラン・ルージュの集合意識の中で埋没し混ざり合うでしょう。何れ魔女ムーラン・ルージュはあなたを殺しに訪れます。その時は、灰も残らないように殺して欲しい。」


「魔女ムーラン・ルージュよ。我輩がこの地で封印されているのはお前の仕業だろう。最初にした契約には縛られる。しかし、それ以外で我が意思を、行動を、最後の矜持すらお前は欲すると言うつもりか。決してお前の望むような結末は訪れない。そもそも、お前の予備は後何体いる?その全てを焼き払えと、お前は要求するのか。グラストンベリーの惨劇をまた再現しろと。それは構わない。だが、それはお前が望んだ事なのか、魔女ムーラン・ルージュ。かつてこの世界を欲し、この世界の知識を貪り、この世界を守り通した己が、自らの故郷を焼き払った我輩に同じ事を行えと望むのか。答えよ、魔女ムーラン・ルージュ。」


「これは私の意思よ。ニーズヘッグ、私は疲れたのよ。転生を繰り返し、誰とも知らぬ意思と対話し、私の存在をこの世界に留めて置くことに。だからお願い。そう、これは願いよ。私はムーラン・ルージュを殺して欲しい、と望むわ。ニーズヘッグ、永き日を共に過ごした友よ。これは私の最初で最後の願いだわ。」


「ならば、その願いは叶えてやらん。思い返せ、魔女ムーラン・ルージュ。かつてのお前ならば、この地を焼き払う事など造作もないはずだ。何故自ら行わない。死にたいのなら己の手でしろ。」


「それが出来ないのよ、ニーズヘッグ。私は自殺することは出来ない。そういう縛りが転生の魔法にはあるの。」


「だとしてもだ。いや、だからこそだ。魔女ムーラン・ルージュよ、それはお前の願いであって魔女ムーラン・ルージュの願いではないのではないか。そうは考えないのか。傲慢で武尊であったかつてのお前ならば、自らの命の決着は自分でつけたはず。お前は誰だ。思い出せ。我が憎き友よ。永劫の縛りを課せられた同士よ。考える時間は無限にある。」


「私が誰か、私にもわからないのよ。でもこれだけは確信出来る。何れ私はあなたを殺しに来る。だから、その時は私の願いを叶えてほしい。」


「その時は同じ答えを魔女ムーラン・ルージュに語るだろう。お前の望みを叶えるつもりは我にはない。お前が罰から逃れる手助けを誰がするものか。」

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