日記 月は満たずに糧となる

6月17日


 試験体は捨てる程ある。魔法に適正を持たせる為の改造手術の成功率は万に一つが良い所だが、実験は日々行われる。とは言っても、私が行う手術自体は月に数度、経過観測が主な仕事と言って良い。

 なぜこのような事を繰り返しているのだろうか。昔からの伝統であると所長はいうが、徒労だろう。魔法適正のある人間を探した方が効率が良い。進言してみるか。


9月7日


 私の意見が採用された。過去の資料を洗い出し1つの仮説を立てた。異能児もしくはそれに類する成人は比較的魔法適正が高いことを発見した。手足の欠損、吃音、精神障害、知的障害、社会適応障害等といったものと魔法との関連性は不明だが、過去の資料によればこれ等の試験体にのみ魔法適正が現れている。

 これまでの研究員も気がついていたのだろう。しかし、魔法は神聖な物だ、という思い込みがこの事実に目を伏せていたのだ。


12月25日


 異能児を集め魔法適正手術を施した。成果がわかるのは来年になるだろう。


1月30日


 十体の試験体から魔法適正が現れた。やはり私の仮説は正しかったのだ。これで魔女ムーラン・ルージュも維持されて行くことだろう。


5月20日


 魔法適正を持った試験体は、肉体強度が低い事が問題視された。儀式に耐え生き延びる個体数が少な過ぎる。また、儀式に耐えられたとして、そこから死ぬまでの時間が短い。一月もたたない内に破棄しなければならなくなった。


7月15日

 

 問題は先送りにされる事になった。現状維持と試験体の肉体強化を並行して研究するよう要請された。

 問題はない。異能者の数は人口と比例し数も増える。むしろ、増え過ぎた魔女ムーラン・ルージュの扱いの方が危惧される。


5月19日


 とりあえず、比較的マシな魔女候補が完成した。赤レンガの風車小屋へと送る。後はベルエポックの住人が何とかするだろう


2月20日


 魔女の生産は軌道へと乗り始めた。より強い個体を探すため、互いに争わせる。増え過ぎた魔女の処分も兼ねた作業だ。簡易的な魔法しか使えないあれらは不様に踊っているようにしか見えない。


12月16日


 ついに自分が試験体になる日が来た。後任には後天性の異能者の適応度調査を引き継いだ。

 さて、私は魔女になれるのだろうか。実験結果を見る限り性別は関係無いらしい。

 明日、手術が行われる。術式は成功するだろう。心残りは、実験結果を私が知ることができない事ぐらいか。

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