第5話
ここからは、白老を経由する海ルートと支笏湖を経由する湖ルート。
海は見たから、次は湖を眺めよう。
熊注意、鹿注意と書かれた北海道特有の看板を見送り進み車を走らせるとパラパラと穏やかに雪が降って来た。
「暖かい場所で見る雪は中々に風情があるねぇ。」
「おん、アマテラスの名が泣いてるけどいいの?」
意地悪な笑みを浮かべるミナト他所に、オオダは前方を指さす。
正確には、宿のある北湯沢の方角だ。
意味不明な行動に首を傾げたミナトだったが、よく見るとそこだけ晴れている。
「違うんだなぁ、スタンバってるのだよミナト君。」
フフーンと得意げに笑うオオダ。
まぁ、これ以上酷くなくなるのなら問題ない。
山の中での大雪ほど怖い物はないのだから。
しばらく走らせていると、湖が見えた。
北海道で有名な所の一つである支笏湖だ。
空港からも札幌からも行きやすく、高い透明度を誇る為に人気らしい。
北海道に住んでいる為かあまり興味は惹かれないが…いざ見てみると綺麗な青い水に少し感動する。
運転しながら横目でみている自分でこれだから、湖に興味を示さないオオダも流石に思うところはあるだろう。
そんな事を横目にオオダをみると、彼女はビクッと肩を震わせていた。
「どったの?」
「鹿と目があってびっくりした。」
フーフーと自分の胸に両手を当てて深呼吸をするオオダをみてミナトは大きく笑った。
「さっきトラックの運ちゃんにオラついてたのに、鹿にはビビるのな。」
「笑うなぁ!
手が届く位の至近距離で目があったら流石にびっくりするわ!
考えてみなさい?
軽自動車とぶつかってもケロッとしている生物だぞ!
そんな奴のツノが窓ガラス貫通したら恐ろしいわ!
運ちゃんが男なら怖くない。
小さな女だと油断した所に蹴りをいれれば…蹴る場所を選べば一撃よ!」
白く綺麗な腕をグッと曲げて力瘤をつくるオオダ。
現実味が帯びているが、何処かの百獣の王みたいな事を言っている。
具体的な場所を言わない辺りは評価しよう。
途中、キノコ王国と書かれた看板と建物が見えた。
「なめ茸のプレゼントは、ここが近いからな?」
「かな?
そして、あれから結構走ったけど…ガソリンは大丈夫なん?」
オオダは、座席を少し下げてチラリとガソリンのメーターを見るとメーターはほぼ赤だ。
スン…とした表情で座席を元の位置に戻してミナトを見つめる。
「…ミナト?」
「みなまでいわない!
知ってる…知っているのよ…ガソリンがないのは…!
でも、気が付いた時には…ガソリンスタンドがなかったのよ!!」
ミナトは、くっ…とオオダの圧に屈してそう叫ぶ。
ここは山道、あたり一面には木々とすこし積もった雪ばかりで建物は見当たらない。
JAFの登録してなかったけど、お金はいくらかかるだろうか?
呼んだとしてどれくらい時間がかかるだろうか?
ボロ車では暖房を止めればすぐに車内は冷えるし…防寒の道具もない。
どちらにせよ車は走らせるしかない…焦りでいっぱいで車を走らせていると、ここでミナトのリアルラックが光る。
彼女の視界に見慣れた見慣れたガソリンスタンドの看板が見えたのだ。
「ふぉおおお!」
「ふぉおおお!」
感動と喜びで声を上げる二人。
普段使っているガソリンスタンドではないが…そんなのはどうでもいい、ガソリンだ。
来たのが女2人だった為か、やたら元気なおじさんに迎えられガソリンを入れてもらう。
おじさんに渡されたタオルで運転席周辺を拭くミナト。
「私…今度から、ガソリンはこまめにいれるね。
アンタに誓うわ。」
「おん。」
車内を拭き上げ、マップを開く。
目的地の北湯沢はまた鼻の先だ、元気よく声をかけて荒げるおじさんに見送られて二人は先に進んだ。
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