第5話 悪女の人形



 血だまりに沈む妹を見た時の俺の衝撃といったら。


 この世界が終わってしまうのではないかと思ったほどだ。

 いや、ある意味そうだったのだろう。


 二度目の家族の死はそれほどの衝撃を俺にもたらした。


 その時、俺は自分の体にある変化が生じるのに気がついた。


 体の中にまがまがしいエネルギーが満ちるような感じがしたのだ。


 その日を境に、普通の人間にはできない事ができるようになった。


 俺はどうやら、本当に邪神の生まれ変わりだったらしい。


 そんな俺に、特別な力が発現した。


 それは偽物を作り出す力だ。


 道具も生き物でも、簡単に作り出せる。


 しかも、簡単な命令しか出せないものの、生き物は操る事ができた。


 この力を使えば、フィアルドに復讐する事は容易だろうと思えた。


 けれど、両親に迷惑がかかるのは良くない。


 だから、俺は彼等の幸せを思って姿を消さなければならなかった。


 跡取りはいなくなってしまうけれど、邪神の生まれ変わりである俺がいるより、ずっといいはずだ。


 それ以降、俺に関する失踪人の情報をたびたび耳にしたが、耳を傾ける事はしなかった。








 数日後。


 一人で行動する事を選んだ俺は、気兼ねなく復讐できるようになったため、色々な事に手を出していた。


 まず行ったのは、邪神の力を使って、あの女そっくりの人形を作りだす事。


 フィアルドそっくりの人形を作って操った俺は、各地で悪事を働かせる事にした。


 最初はぎこちない動きしかさせられなかったものの、一か月ほど練習すると普通の人間と同じような動きをさせられるようになった。


 邪神の力になれていく自分に複雑な思いだったが、妹の為だと我慢。


 そうして準備を整えた俺は、フィアルド人形を操って人を襲わせ、誰かを騙し、物を盗んだ。


 あの女は、自分とそっくりの人間がいる事を「薄気味悪い」と言っているようだ。


 たまに学園に近づいてこっそり様子を見ていると、不快そうな表情をしているのが見えた。


 まだ、あの女は追い詰められていない。


 人形が犯罪行為に手を染めている時間、あの女は「屋敷にいた」「友達といた」「学校にいた」「友達の目の前にいた」ため、罪に問えなかったからだ。


 それは仕方がない。


 復讐は一思いに行っては、つまらないからだ。


 妹が味わった地獄のような辛さを、もっともっと時間をかけて味わってもらわなければ。


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