多言語を操る少年がスパイになった?

龍川嵐

大和の人生 

僕の父親は大学院の教師、母親は海外企業の社長。


僕の家庭は裕福な家庭である。毎日美味しい食事を食べたり、ふかふかとした布団で寝たりして、幸せな生活を送っている。毎日が幸せが充実して、華やかな生活である……ではなかった。


一番厳しいのは、勉強面だ。


勉強をしたくないのに、両親に無理矢理に勉強をさせられた。勉強に悪影響を与えそうなスマホとゲームなどを使わせてもらえなかった。他の同年代の人は当たり前のように使っているのに、どうして僕だけ使わせてもらえない?


僕の家庭は、毎週末にパーティーが開く。このパーティーは、近所が集まってBBQとかするではない。さまざまな外国人が集まって情報を提供するパーティーだ。


さまざまな外国人が集まるので、それぞれの人に対応できるように複数の言語を無理矢理に習得させられた。本当は言語を覚えたいと思わないけど、母が決めたことなので何も否定ができなかった。


不便のない生活、温かい料理を食べられる生活である。それなのになぜか僕の心は何も満たさない。


時々、窓の外に自分と同じ年齢の幼い少年と少女が仲良く遊んでいる。それを眺めると、嫉妬心が湧いてきた。

(なぜ僕は普通の人と違うの?裕福な家庭から生まれてしまったから?両親ともエリートなので、自分もエリートにならなければいけないので努力する?)


怒りが表面に剥き出して、鉛筆を折った。

鉛筆を折った音が聞こえたせいか、父親が気づいて僕の頬を叩いた。


一瞬、僕の頬を毒バチに刺されたように鋭い痛みが走ってきた。頬に手を当てたまま父親の顔を見ると、鬼の形相になっていた。


「バッキャロ!何度目なの?!今の時代は資源が枯渇しているんだ。だから資源を大切にしろ!と何度目も注意を言ったわ!いつになったら守れるなの?!」


初めて叩かれたわけはない。前に何度も叩かれた。


最初ごろは可愛がられた。しかし、勉強を始めてから厳しくなった。年齢が上がるたびに徐々に暴力がエスカレートさている。前から何度も僕の頬を叩かれた。


僕はまだ小さい子供なのに暴力を振るうなんて…

頬を叩かれないようにするために気をつければいい。


でも、僕はまだ幼いだから何に気をつければ良いか分からない。

ただひたすらに両親からの暴力を耐えていた。一度も反抗をしていなかった。


何度も暴力を繰り返して受けた結果に、自分の感情が薄れてきた。

徐々に自分だけなくもう一人がいるような感覚がすると考えるようになった。


最初は曖昧な感覚だったが、徐々に明確化されていた。


ある日、自分の中に自分に似たな人が出現した。僕の肩にポンと乗せて「もういいよ、無理にしないで。僕が守ってあげるので、後ろでゆっくりと休んでおいて」と優しいな口調で話しかけられた。


もう一人の人にハイタッチしたら、心だけ交替した。

心の奥でゆっくりと休めた。


一人だけなく、ストレスが増せば増すほど僕に似たな人格が少しずつ増えていく。

もちろん全員が同じ性格ではない。さまざまな性格や個性を持っている。


何分後になったら、本当の自分が戻ってくる。

1日に別の人格に何回も交替したり、自分が戻ったりする日々が続いてきた。


しかし、自分の心の中に置けるスペースに余裕がなくなり、息が苦しくなり始めた。

今の年齢には自由に枯渇している。本当は自由に空へ飛び回りたいが、鳥籠の中に閉じ込められている。


運悪く、本当の自分が外国人と交流を深めるパーティーに参加している。

一人一人に合わせて、話し方や話題を変えたり、気遣いをしたりする必要がある。


もう我慢できなくて、ついに爆発した。僕の手にしたグラスを落とした。

落としたグラスがゆっくりと落ちていく。まるでスローのボタンを押したような感覚だ。


グラスが割れる前に、反射的に足を動かした。僕の脳が命令したわけはない。体のSOSで、自分の体が勝手に動く。


周りを見ると、動きが遅く見えた。これは、限界リミットが外されていたので、他の人より自分の方が信じられないくらい驚異なスピードで移動した。


ドアを開けて、ドアを潜り通す同時にグラスが割れた音がした。パーティーに参加する人が割れたグラスの音に注目した。僕が脱出したのは誰にも気づいていない。


誰かついてきているか、後ろに確認をせずにそのまま駆けた。


パーティーに向けて前髪を後ろに持っていくオールバックをしたし、黒いスーツを来ていた。

パーティーに相応しい見た目だったが、勢いよく走ったせいで髪型と服装が乱れた。


ズボンの中に入ったカッターシャツが取れて、外に出ていた。今の僕はパーティーに相応しくない自分になった。

黒色曇りが漂って、ポツポツと雨が降ってきた。徐々に雨が強くなってきた。


雨宿りのある場所を探した。


運良く雨宿りを見つけることができた。隣に人がいるけど、雨を止むまでここで待つか。大雨を受けたせいで、全身がびっしょりと濡れていた。気持ち悪い。すぐに着替えたい。


ガタガタと寒くなって、歯がカタカタと歯と歯が叩く音をした。今の時期は冬だ。

なんで脱出するタイミングが冬なの?僕ってバカだね。


ぶつぶつと呟くと、隣にいるバケットハットを被って、タバコを吸っている男性にタオルを渡された。


「濡れた服を着たままだと風邪を引いてしまう。このタオルを使いなさい」

ロシア語で無愛想な気遣いをして、僕に話しかけた。


なぜ親切にしてもらったのかわからないけど、お礼をすぐに言わないといけないと両親の言葉を思い出した。


「タオルを貸してくれてありがとうございます」


相手がロシア語で言われたので、僕もロシア語でお礼を伝えた。

お礼を伝えたら、相手が目を大きくした。


「あなたはロシア語で話せる?」


突然、ロシア語で話せる?と質問された。おそらくこの国民はロシア語で話せるのはあんまりいないよね。

だからロシア語で喋られるの?!と驚いただけだと思う。


「ええまあ…ロシア語だけなく、他の言語も話せます」


口で咥えたタバコをぼろっと落とした。

え?タバコを落とすくらい、そんなに驚いたの?


「あの、大丈夫ですか?」


と声をかけると、相手が僕の肩を掴んだ。


「素晴らしい!多言語を操れる人がちょうど欲しかった。私の名前はアレクサンドルだ。君の名前は?」


え?あれ、なんで急にロシア語から英語に切り替えた?

戸惑いながら自分の名前を答えた。


「僕の名前は大和です」


「ミスター・ヤマトか。よろしく。私はスパイだ」


ロシア人の人格の僕は、隠しきれない驚きが顔に出てしまった。


スパイって映画や小説だけしか存在しないかと思った。まさか、僕の前にスパイがいるなの?

バクバクと心臓の音がうるさい。これは恐怖?いや、アドレナリンが大量に分泌された。


本当にスパイなのか確認するために、念のために質問した。


「あなたはスパイですか?」


「ああ、そうだ。私のスパイ団は世界を征服するのが目標だ」


「世界征服…」


僕って夢の中にアレクサンドルと会話している?まるで夢のように心地が良い。

感じたのままを言葉で表現した。


「すごい…壮大な夢を持っていますね…」


「いや、夢の話ではなく、実現する夢だ。例えば、ライト兄弟が空を飛ぶのが夢だよね。結果は無事に飛べた。月も人間として初めて着陸することができた。今の時代は、大きな夢を持つことで世界を動かせるんだ」


アレクサンドルの話を聞くと、ドロドロと固まって動けない気持ちが、ふわふわと浮くジャンボのように変化した。目はキラキラをしながら話を聞いた。


「僕も…自由になりたいです」


「世界征服をすれば、君は必ず自由を手に入れることができる」


「・・・」


僕は自由という言葉に心を動かされた。

もうあの鳥籠の中に閉じ込められたくない。鳥のように自由になりたい。


「僕もスパイになれますか?」


「お、スパイになりたいか、歓迎だ!」



急にロシア語で話して、手を差し伸ばされた。

僕は差し伸ばされた手を握って、強い握手をした。


真冬の夜中の中に二人は契約として握手を交わした。ここから世界征服の計画スタートだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アレクサンドルの背中に追いついて、最初は広い通り道だけど、徐々に誰も通らない狭い道になった。

道路の上に割れた注射があれこれに落ちている。この辺りに売春と密売しているだろう。


経済的に悪そうに見えるが、一切怖いという感情はない。なぜなら心はもう壊れたから。

涼しいな顔をしながら、背中に追いついていった。


「はい、到着した。この中にボスがいる。無礼にならないように気をつけろ」


到着したのは、廃工場だ。廃工場からネズミや、猫の声が聞こえる。壁は、塗装された部分が剥がれている。鉄骨は長年に手入れをしていないせいで、酸化して錆だらけになっている。昔は自動車の工場として、車を作られていたかな。

真っ暗なので、はっきりと見えない。まるで地獄の象徴のようだ。


本当にこの廃工場でスパイ団がいるのか、疑問を浮かんだ。

アレクサンドルはそのまま廃工場の中に入って、ボスのところまで誘導してくれた。


廊下の上に破片とコンクリート片が散らかっている。靴の底が刺されないように慎重にしながら歩いた。


複数のドアが並んでいる。この工場は、隣と隣の間にライン工程が流れていて、各自の部屋で一人が流れた部品を決まったところにつけると思う。どんな工場なのかわからない。


ボスが滞在していると看板が吊り下がっているところまで到着した。

アレクサンドルは横に立って、ドアを開けてくれた。


腰を曲がって、「はい、どうぞ」と言った。


扉の向こうにボスがいる。どんなボスなのかわからないけど、恐れ恐れながらボス室の中に入る。

あれ?ボスはいない?大きな背もたれの席だけしかない。


もしかしたら背もたれの前にボスが座っているかもしれない。

背もたれの方に向かって歩いた。


僕がここにいるけど、気づいていないだろうと声をかけてみようと思ったら「ヤマトか。よく来たな」と聞こえた。


ピタッと動かした足を止め、声をかけようと思ったが、喉で蛇口を閉めるように止めた。


僕は何も言っていないのにどうして気づいていた?それと、なぜ僕の名前を知っていた?

僕は自己紹介をしていないのに、どうして僕の名前を呼んでいた?


ここで珍しく顔の色が青白くなった。もしかしたら僕だけなく、他の周りの様子を監視していた?


「明らかに動揺してるな。なぜ君の名前を知ってるのか疑問を持ってるよね。答えは簡単だ。部下に盗聴マイクがついている」


部下…アレクサンドル?

あの雨宿りで出会ってからここに来るまで全ての内容を知っていた?


一切情報を漏らさず、どこからどこまでもずっと僕を監視しているか。


「それと、なぜ君がここにいるのか気づいたのは、鏡だ。後ろに見てみな」


「え、後ろですか?」


僕は後ろに振り向いてみたら、鏡があった。鏡に映っているのはボス…車椅子に乗っている?喉に人工呼吸器・気管チューブが繋がっている。顔の前に透明なディスプレイがある。


「あなたもしかしたら…」


続きを言おうと、突然、背もたれが右回れをした。

ここに来て、ようやくボスの正体が見れる…


鏡に見た通りに気管チューブをつけたり、ボスの前に透明なディスプレイを飾ったりしている。


「初めまして、私の名前はレオだ。私の身体を見て通りに、私はALSだ」


「ALS…聞いたことがあります。喉、舌、手足の筋肉、呼吸が衰えて、普通の人と同じように身体を動かすことができない病気ですよね?この透明なディスプレイは…文字を入力するためのツールですか?」


「その通りだ。私は声を出すことができん。その代わりに目で文字を入力して、文字から音声へ変換してもらう。私の聴力も失っとる。だから、お前らの声がマイクの中に入って、文字へ変換してもらう」


どうやら喉、舌、手足の筋肉、呼吸だけなく、聴力も低下しているらしい。

この身体は不便だそう。でも、ボスに対して生活は不便ですかと質問するのはあまり失礼しすぎる。


思ったことをボロっと溢れないように声帯を閉めた。


「無駄だ。声を出さなくても、君が何を考えてるか知ってる。なぜならば、君の心を読み取れるからだ」


え、僕の心を読み取れる?

この人は普通の人間ではない。エスパーな人間なの?


なるほど、なぜALSを持っている人がなぜボスになったのか、今納得できた。


「容赦無くズバズバと心の中で唱えてるな。でもなぜボスになったのか納得できたそうだな」


「はい、そうですね。世界を征服するために相応しいな能力だと思います。世界征服は映画や小説だけしか書かれていないので、実現は不可能と思いました。だが、レオ様がいると、現実でも実現は可能かもしれないです」


「いや、『かもしれない』ではなく、『できる』だ」


「は、はい…」


普通なら、世界でどこでも成功されていないので、ここではっきりと「できる」と言い切れない。

それなのにレオ様は「できる」という言葉ではっきりと言った。


おそらくレオ様の思考は、失敗という言葉は載っていないと思う。

障害を抱えながら未知な領域を踏み越えるのは、普通の人間ではなく化け物じゃないか?


普通の人間と掛け離れしすぎて、口がポカリと開いた。


「半分は正解、半分は不正解だ。私の能力は確かに素晴らしいが、これだけじゃ足りん。私が探し求めていた能力は君だ。多言語を操る、人格をコロッと変えることもできる能力が欲しい。君と協力すれば夢への近づける。君の望みは自由を手に入れたいよね」


突然、僕に話を振ってきた。

ああ、そうだな。

部下・アレクサンドルに盗聴マイクがついているので、もちろん僕の望みも聞いていたと思う。


真っ先に浮かんできたのは、僕の家庭だった。自分の意思を無視して、両親のオモチャとして扱われた。自由に枯渇しているし、両親に恨みを持っている。だから…


「僕は、本当の自由を手に入れたいです。自由を手に入れるのが僕の目標です」


「素晴らしい、君の瞳の中に怒り、恨み、自由などさまざまな感情が沸々と沸騰されてる。いいか、夢に近づくためには憎しみという気持ちを忘れるな。忘れたら何もできないからくり人形と同じだ」


「からくり人形…」


鋭いな瞳で見つめられて、ゾクっと足が震え始めた。ゴクリと固唾をのんだ。

こんな恐怖という気持ちは久しぶりに感じ取れた。父親の怒りに慣れた以来かな。


「我々の情報を一切漏らさずに居られるか。もし漏らしたら、即に君のアタマに弾を貫くぞ。約束を守れるか」


手足は動けないはずけど、おそらくボスの部下に打たれるかもしれない。

スパイになるためには、生死に関わっている。


一つだけのミスを犯したら、全てに積み重ねたものがパーとなってしまう。

スパイって命がけだなと解釈した。スパイの知識が一つ増えた。


「はい、約束を守ります。僕の友達や、身近な人々はいません」


「神に誓えるか」


本当に約束を守れるかどうか疑いを持っている。

簡単に信用してもらえないと思うけど、とにかく情熱をこめていけば認めてくれると思う。


2回目は、1回目より一語一語を大きくはっきりと話すのを意識した。


「はい、死んでも口を裂けないように誓います!」


「そうだ、この意義込みだ。よし、おい部下。君を寝室まで案内してくれ」


僕の後ろに立ち尽くす部下に召使いに命令をしてるように伝えた。

部下は「かしこりました」と軽く会釈してから、僕に手の平を上にして手を招いた。


え?廃工場に寝室があるの?

まさか破片の上に寝るつもりなの?背中が破片にグサグサと刺されて、血を流しても我慢しろということかな。


おそらくこのスパイ団は歴史に浅いかもしれない。国、世界から見ると組織が小さい。

だから贅沢な生活ができないだろう。周りの現状を見渡して、なるほどと勝手に一人だけ解釈した。


アレクサンドルの背中にまた追いついていく。

ボスにいる部屋から出て、あれこれに落ちている破片をベキベキと壊れる音をしながら歩いた。


そして、廃工場から出ていった。

あれ?廃工場で泊まるじゃないか?


どこまで連れて行くのかと確かめたくて質問したが、答えてもらえなかった。

ボスに口を封じ込められたかな。僕だけなく、部下も約束を破れたら即に殺されるか…


脳内に黒いモザイクをかけられた部下が銃を持ち、僕は打たれる…というシーンを作り上げた。ちょっと想像するだけで冷や汗が流れた。死ぬってどんな風に感じるだろう。痛みはどんな感じなのかな。


死について考えるって、哲学のように考えている。死について考えるのは、バカ馬鹿らしい。考えるのをやめた。


スパイ、ボス、ALS、死などあれこれのことを考えている間に、いつの間にか寝室の前に到着した。

ここは…豪華な寝室?僕の部屋より広い、バスルームもベッドも広い。


さっき訪れた廃工場と今ここにいる寝室のギャップが激しくて、一瞬に立ちくらみになりそうだ。

僕の勘だけれど、昔のボス・レオ様は億万長者だった?


しかし、ALSの原因で自分の思うように動けなくなった。もうこれ以上に働くのは難しいので、今まで譲らなかった立場から降りられた。自分の病のせいで自分の持ち手を失われた。


レオ様は、失われたモノを再び得るためにスパイ団を作って、世界征服をしようと恐ろしい計画を作っただろう。

だが、僕の推測なので全てが正しいわけはない。本人に聞いてみないとわからない。


今日の一晩に色々なことがありすぎて疲れた。

透明なガラス張りのバスルームに入って、シャワーの蛇口を捻った。


初めは冷たい水が流れているが、少しずつ熱いお湯が出てきた。流れる水を触れて、ちょうど良い温度になったら、体に当てた。芯まで冷えていた体が少しずつ温めてきた。


全身に洗い終わったら、横にあるタオルと浴衣綿タオル着があった。僕は手を伸ばして、タオルを手にした。

拭き終わったら、浴衣綿タオル着を身につけて、フカフカとしたベッドの上に仰向けにした。


突然、睡魔に襲われて、瞼が重くなった。目を開けるのに精一杯だ。もう限界だと、目を閉じて寝た。


<翌日>


なんか美味しそぅな香りが鼻をくすぐる。瞼を開くと、目の前にふわふわとしたスクランブルエッグ、カリカリと焼いたベーコン、ずっしりと実が詰まったカットトマト、こんがりと焼いたトーストが皿の上に乗せた。


ゴクリと唾を飲んだ。一気に食欲が増してきた。


あれ?朝食を食べたいという気持ちは久しぶりかな?いつもなら食欲がないので、いらないと断ることが多かった。

しかし、今は食欲がある。速く食べたいと、フォークを手にする。ベーコンを拾って、口の中に入った。


じゅわぁと塩味の旨味が広がってくる。歯茎が染みて、涙が出た。

沁みていているけど、涙が出るくらいすごく美味しい。


ひょいひょいと次々の食べ物が口の中に入る。咀嚼する間に、向こうの机の上に何があるかと気づいた。

なんだろうかと思って、フォークを置いて、ベッドから机に移動した。

机の上を見てみると、黒色のスーツが綺麗に畳んで置いてあった。


黒色のスーツを拡がってみたら、新品だそうだ。スーツの下にカッターシャツとネクタイもあった。

ひらりとスーツの中から落ちてきた。落ちたのは手紙だ。


床に落ちる前に体が反射的に動いて、手紙を拾った。

そして、ベッドに戻って、開封して読んでみた。


『ミスター・ヤマト。おはようございます。ぐっすりと寝れましたか?朝食を済ましたら、このスーツを来てください。昨日来たボスにいる室に集合してください。』


朝食をしながら手紙を読んだ。


何分くらい集合したら良いかわからないので、一応早めにいこう。さっさと朝食を済まして、洗面所に向かい、歯磨きと顔洗いをした。そして、新品のスーツとカッターシャツを身につけた。最後は、鏡を見ながらネクタイをつけた。


大体準備が終わったら、ドアを開けてあの場所に向かった。


昨夜に廃工場からホテルまで案内された道を思い出しながら走っていく。10分くらいかけてようやく廃工場に到着した。ハアハアと息切れを落ち着かせるようにこの辺に歩き回った。乱れた服を整えて、流した汗を拭いた。


少しずつ息切れがおさまってきたら、廃工場の中に入った。

相変わらず、床の上にガラスの破片が散らかしている。パリパリと音をしながら歩く。


ボスにいる室の前に到着した。ドアを叩こうと思ったら、向こうの室から「入っていいよ」と聞こえた。

ここに来てもずっと僕を監視しているようだ。

不気味だと思うけど、スパイは一度スパイになったら、もうここから逃げられない。


ドアのノブを回して開けたら、アレクサンドルとレオ様、もう一人の女性がいた。

スパイスーツを着ている女性が僕のところに近づいてきた。スッと手を差し伸ばされた。


「初めましてアンナだ」


突然、スペイン語で話しかけられた。もしかしたらアンナは僕に語学能力があるかどうか確かめているじゃない?

残念ながら僕は苦手な言語はない。


差し伸ばされた手を握った。


「初めまして、アンナさん、ヤマトさんです」


アレクサンドルと初めて出会った時と同じように一瞬に驚いた顔になった。すぐに食いつかれた。


「あなたはスペイン語話せるね!しかも発音は完璧だ」


突然、英語に切り替えた。

スペイン語だけなく、英語も訛りは一切感じられず、流暢に話しているな。

アンナさんも、僕に負けないくらい語学能力を持っている。


アンナさんは英語では話したので、僕も英語で話した。


「それはどうもです」


僕が言った後、レオ様が僕とアンナさんを呼んだ。

僕より、先に早く答えたのはアンナさんだ。


「レオ様、どうしました」


「初のミッションだ。隣の国に情報を集めろ。アンナさんと一緒に活動だ」


なんでアンナさんと一緒に活動するの?

渋々する間に、アンナさんはピンっと背を伸ばした。


「レオ様、了解です」


ミッションを出されたら、すぐに返事をしなければいけないか。

なるほど、スパイの先輩を見て真似をすればいいだろう。


自分も同じように背を伸ばして「レオ様、ミッションをこなせるようにがんばります」と言った。


「よろしい。ではアンナさん、ヤマトさんに作戦とやり方を教えなさい」


「了解です」


返事をしてから、僕に振り向いて「私についてきて」とクイっと首を動かしながら言った。

「はい、わかりました」と返事して、アンナさんの背中に追いつく。


ボスにいる部屋から出て、通り道に通って歩く。


今の時間は朝なのに、廃工場の中では電気は付いていない状態なので、薄暗い。

コンクリート片にぶつからないように気をつけながら進んだ。


アンナさんは慣れているようで、足元を見ずに簡単にコンクリート片を避けた。

この人は多分、雇われたばかりではなく、何年間もスパイを続けてきたと思う。思ったけどスパイ団はいつから始めたかな?


僕はアンナさんの隣に並んで、アンナさんに話しかけた。


「アンナさん、このスパイ団は何年前からあった?」


アンナさんは何も言わずにそのまま早足で前へ進んだ。

あれ?聞いてはいけないタブーだった?


ずっと君を見ているとレオ様の発言を思い出して、後ろに振り向いて確認した。

誰かに僕を尾行している?まさかアレクサンドル…いやそれはないと思う。


前へ振り向くと、アンナさんが僕の隣にいた。

アンナさんが僕の耳元に近づいて囁いた。


「実は、10年前から始まったらしい」


「え…」


驚きを隠すことができなくて溢れてしまった。


「彼・ら・の・目・的・は・戦・争・だ・。10年間をかけて人類を滅ぼせる兵器を作ってるらしい」


「・・・」


一瞬に頭の中に混乱になった。何も答えなかった。

さっきレオ様が言ったこととアンナさんの言ったことが全く違う。


僕が思ったのは、相手の国の情報を盗んで、相手の行動を邪魔にして彼らより先に陣を取る感じだった。

そして、世界征服ができる、みたいな流れだと思った。


しかし、レオ様の本当の狙いは人類を滅ぼさせて、そしてほんのわずかな資源を独り占めにする。

人道から外れている。人の命を知らない人は悪魔のようだ。


アンナさんと僕は何も話さず、そのまま例の場所まで黙々と歩いていく。

床にドアらしきなドアがあった。アンナさんが膝を床につけ、ドアを開けた。


開けたら、地下まで下りる階段があった。初めはアンナさんから、そして僕が下りた。

地下まで付いて、真っ暗で何も見えない。


あまり暗すぎて、ふらついた。

アンナさんにぶつかって、そのまま倒れた。


ん?僕の頭に何か柔らかい感覚がする。これは何かと、瞼を開けてみるとアンナさんの胸に僕の顔を埋もれた。

冷酷無情な顔になって、大和さんの頭に銃を当てた。


「早くどいて」


にっこりと笑ったが、目は笑っていない。

本気で怒るアンナさんって怖い。


僕はすぐ様に胸から離れて、土下座で謝った。

アンナさんはフーとため息を吐きながら、スイッチを入れた。


電気が付いたら、複数の銃が並んでいる。変装着も揃っている。


これは…

心の中に呟く途中にアンナさんが先に言った。


「ここは、武器室だ」


「わあぁ、すごい」


ここに来ると、生まれて初めて純粋な子供のような人格になって感動した。


目をキラキラさせて、直接に触れずにまじまじと銃を眺めた。物騒な銃にのめり込んだ。

アンナさんはわざとらしく、咳払いをした。


「のめり込りたいという気持ちはよくわかるけど、渡されたミッションについて話す」


彼のミッションを言うだけでピリッと空気を張り詰めたような雰囲気になった。

急速に純粋な子供から心のない自分にチェンジした。


アンナさんは、白い封筒の中から綺麗に畳まれた手紙を出した。手紙を広げて、書かれた内容をそのままに話した。


「えーと、フレンサスという国のガブリエル首相とすり替えて、フレンサスの情報をぬすめ。偽物の首相はミスター・ヤマトが変装しろ、と書いてあった…では、今からガブリエルの顔に変装させるわ」


アンナさんが、ガブリエルの顔写真を僕に差し出した。

これを見てみると、年老けているが、おそらく経験豊富な人だと思う。青い瞳で、丸いメガネをかけている。


僕がこの写真を見る間に、アンナさんはガブリエルのスーツにそっくりなスーツを探す。

探しながら、突然フランス語で僕に話しかけた。


「このガブリエルのこと知ってる?」


もしかしたらフランス語を話せるかどうか確認するためにフランス語で僕に話しかけた?

よし、フランス語と年老けた高齢者の人格にチェンジした。


「ええ、時々テレビで見てます。でも、あの人は国民のために貢献しようとする姿はあんまり見られない。演説で国民のために尽くしますと言ったけど、実際には違うね。国民と言う言葉で綺麗事にして、国民から多くの支持を取っていた。汚いなやり方で支持を取ろうとする奴は許さない」


年季の入った知的と流暢なフランス語を交わしながら話した。しかし、ほんの一部だけ本音を漏らしてしまった。

本音を漏らしているとは、本来の自分がちらっと現れている。


「んん〜素晴らしい。完璧なフランス語だ。もう少しイントネーションを加えると良い」


下手褒めをされた。

あんまり褒められるのはあんまりなかったので、むず痒くなった。


この後もフランス語でしょうもないやりとりをした。

そして、アンナさんが山盛りとした服装を手にして、僕のところに近づいてきた。


手を離して、大和さんの足元の近くに落とした。


「大体必要なものを揃ってた。早速、このカーテンの向こうで着替えて」


はいはいと答えると、また銃を当てられるかもしれないので適当な返事をやめよう。指示を素直に従って、落とした服装を拾って移動した。


白いカーテンの中に入って、今朝に着替えた服装を脱いで、新しいスーツの袖に腕を滑らせた。しかし、問題に直面した。それは、自分のサイズよりでかい。ぶかぶかしている状態だ。


一瞬、頭に血が上った。体の中にぐつぐつと煮るではなく、冷たい氷に1000度以上の鉛を乗せて溶けるような感覚になっている。


白いカーテンを開けて、アンナさんに向けて話しかけた。


「どう言うことですか。わざと僕のサイズよりでかい服を選びましたね」


「あー」と頭を掻いて「説明が足りなかった。ガブリエルさんの体型は見たことがある?」


テレビの中で見てたけど、ガブリエルさんが歩くときタブタブと水風船のように揺れてた。


「結構お腹が出ています。ビール腹のような腹でしたね」


「そうだね、つまり、ガブリエルさんの体型に近づけるようにわざと服のサイズを大きくする。あとで服の中に綿を詰めるから安心して」


木の箱の中から綿を取って、手の平の上に乗せた。僕に差し出した。

綿を触ってみたけど、いつもの綿と違う。普通の綿ならふわふわとするけど、この綿は違う。


「これは…」


「気づいたか、これはただの綿ではなく、改良した。推し潰れず、反発のある綿だ。これはアレクサンドルが開発したんだ」


どうやらアレクサンドルはエスパーだけなく、科学分野も優れていたらしい。

こんな素晴らしい開発があるなら、ノーベル賞でも貰えるじゃないか。


しかし、ノーベル賞を受賞するアレクサンドルは見たことがないし、ニュースになっていない。

もしかしたらアレクサンドルの目標を達成するために、ライバルに邪魔されないように積極的に報告しなかったかもしれない。こんなにすごいものを開発していたとは、恐ろしい兵器も開発したかな?


想像するだけで、背中にブワッと滝のように汗が流れた。

いや、今ここで考えないでおこう。僕が見えないところに監視されているかもしれない。


今のところは我慢するか。

アンナさんに手伝ってもらいながら、黙々と自分の体に改良された綿を入れた。


ほっそりとした体型から、デブリと太った体型へ激変に変化した。

全身鏡に僕の姿が収まらない。お腹のあたりが全身鏡からはみ出している。

まるで豚のような姿になっている。


「はい、これもつけて」


アンナさんに話しかけられた。なんだろうと視線が全身鏡からアンナさんに移動した。

目に付けたのは、人間マスク?


「もしかしたらガブリエルさんのマスクですか?」


「ええ、そうだ」


手の平の上には、ガブリエルさんのマスクだった。

渋々と、受け取って、被ってみた。


もう一度全身鏡を見てみると、ガブリエルさんの顔にそっくりだ。

偽物なのか、本物なのか判別できないくらいレベル。


自分は僕ではなく、ガブリエルさんだとちょっと感銘を受けた。


「準備は大体終わったね、そ・ろ・そ・ろ・行・く・か・」


え?目を大きくして、擦れた声が出てきた。


「そろそろ行くって…」


「今から本物のガブリエルさんとすり替えて、情報収集をするわ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


僕とアンナさんは、フレンサスにいる。

現在の時刻は夜。スパイ団にいる時刻は昼間。日夜逆転なところにやってきた。


事前に確認した通りにルートで車が走っている。この車の中にガブリエルさんと、二人の警備員、運転手がいる。

彼らの目的地は、5星付き高級レストランだ。このレストランで会食するらしい。


誰と会食するのは…ダイタという国の首相・カールだ。

この会食の目的はフレンサスとダイタと友好を深めること。


僕らの計画はガブリエルさんとすり替えて、フレンサスの情報を盗む。それだけなくダイタの情報も得る機会がある。

これは一石二鳥だと思ったら、突然アンナさんの携帯電話がかかってきた。この携帯電話は独自のサーバーを構築したので、サーバーの間に僕らの情報を盗む懸念はない。


アンナさんは何も言わずに静かに聞いていた。

僕は「?」と頭を傾けた。普通なら返事をするけど、今はやけに静かだな。


通話が終わったら、すぐに僕の耳元に近づけ、小さな声で囁いた。

思いも寄らない内容で少々に驚いた。


この計画を本当に実行して良いの?レオ様、一体何の狙いなの?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


高級レストランにガブリエルさんとカールさんと会食をしている。まずは前菜、魚料理、肉料理、デザート、次々と美味しそうな料理を頬張っている。


デザートを食べ終わって、最後にウエイターが盆の上に乗せたコーヒーを運ばれてくる。

ガブリエルさんとカールさんの近くにコーヒーを置いた。


「ごゆっくりに」


一言を言ってから去っていた。


ガブリエルさんは、ゆっくりと持ち手を持って、縁を唇に近づいた。熱々としたコーヒーがゆっくりと口の中に注いでいく。少しずつ飲んで、完全に飲み切った後、突然尿意があった。


ガタンと席を外して、トイレに向かった。

ガブリエルさんがトイレの中に入ると、誰かがこっそりと「掃除中です」の看板を置いた。


トイレの中にでは、大型ストール小便器は全部故障していた。仕方なく大便器にした。

ドアノブを引いて、中に入ってドアを戻して、鍵を閉めた。


ガブリエルさんがベルトを外す瞬間、何かの布で口を押さえられた。


「んんんん!」


口を押さえられたので、叫び声を出せない。そして息ができない。

徐庶に意識が朦朧になって、倒れた。


倒れたガブリエルさんを冷えた瞳で見て、手にハンカチをしたままボソッと小さな声でフランス語で呟いた。


「ガブリエルさん…ごめんなさい…」


倒れたガブリエルさんの体に縄で縛って、そして口にガムテープを貼った。

最後は、大便器のドアの前に故障中の張り紙を貼った。


大型ストール小便器に貼られた張り紙を全部剥がして、お手洗いの近くにゴミ箱に捨てた。

トイレを出る前に、ガブリエルさんのマスクをつけた。


「掃除中です」の看板を片付けて、ロッカーの中に置いた。


「さて…始まるか…」


一歩へ出して、カールさんがいる席に戻る。


「遅くなって申し訳ありませんでした」


カールさんに向けて謝罪した。

そのまま席につけた。


「大体食事は終わったので、そろそろ解散するか」


カールさんが席を立つ前に僕は阻止をした。


「ちょっと待ってください、カールさん。少しだけ話したいことがあります」


「なんだ、手短にして。この後の予定があるから」


「2分で済みます。この会食の目的は友好を深めるだけなく、戦争宣言するためです。ダイタの領土がちょうど欲しいなと思いました。ダイタの領土を分けてもらえますか?」


「はあ、何をいってんの?簡単に譲るわけはない!」


一気に鬼の形相に変化した。顔が真っ赤になっていた。


「お互いに成立していないなら…戦争になるしかないですね」


「ガブリエルさん、本当に戦争したいの?」


「ええ、もちろんです。ダイタの領土を奪える機会があるからです…」


「なんだと!1ミリとも譲る気がない!お前の挑発に乗る」


僕は口角を釣り上げて、契約書と万年筆を用意した。

もちろんこの契約書は偽物だ。


もしガブリエルさんが目を覚めたら、戦争宣言をしていないと撤回するかもしれない。だから戦争をする事実を知るために契約書が必要だ。


「はい、ここでサインをお願いします」


僕が差し出した万年筆を受け取らず、ポケットの中から出した万年筆でサインをした。

ニコッと微笑みをしながら「良い夜に」とカールさんに話しかけた。


「戦争宣言がなければ、良い夜になれたのにね」と振り向かず、そのまま帰って行く。


そうだ、レオ様からの電話は『ダイタに軽く挑発をしろ。そして戦争に導いてこい』と伝言があった。

おそらくレオ様の狙いは、わざと混乱を招いて、戦争する場所で恐ろしい兵器でも落とすつもりか。


ゾッと喉に毛でも生えるくらい恐ろしい。しかし、ここで逆らううと撃ち殺されるかもしれない。


<翌日>


新聞に戦争を開始する記事が載っていた。

新聞を閉じて、はあと弱いため息を吐いた。


「僕の望みは戦争になってほしい?人類を滅ぼさせて独り占めにしたい?」


全ての望みは、僕ではなくレオ様だ。

僕は一体何を望んでいるかな。


珍しく今日は休みだと手紙がやってきた。何をするかわからないけど、自分の部屋でのんびりと休んだ。

ベッドの上に仰向けにした。なぜか胸騒ぎがする。


僕だけ知らないままにして、レオ様達だけ戦争に行くつもり?

もちろん根拠はない。単純に直感で感じた。


すぐにスーツを着替えて、この部屋から出ようと思ったが、ドアは開けない?


「あれ?誰かに鍵で閉められた?」


ドア越しから小さな声が聞こえた。


「君の勘の通りです。多言語を操る才能だけなく、危険察知度も素晴らしい。でもこの部屋から出させません。レオ様から命令を受けましたから」


この声はアレクサンドル?まさかここで裏切られた?

ドアをバンバンと叩いた。


「くそくそ、ここから出させろ!」


「申し訳ないが、無理です。戦争が終わるまで指を咥えたまま待ってください」


そのまま自分の部屋から離れていく足音が聞こえた。

最後にドンっと強く叩いた。


「どうする!このままだと大量の人が亡くなってしまう!」


頭を抱えたままズルズルと尻餅について、壁に背もたれをした。


「僕のせいだ。僕のせいで最悪の戦争に導いてしまった」


この姿勢のままに夕方を迎えた。

瞬間にドアを叩く音が聞こえた。それと、大きな声が聞こえた。


この声は…アンナさんか?


「この部屋から脱出の助けに来た!聞こえるか?」


少しずつ意識を取り戻し、すぐに立った。


「おーい、ここにいる!」


「いるか、どいて。今からドアを銃で打つ」


アンナさんの言われ通りにドアの横に移動した。

ドドドドド!と銃を打つ音がする。


最初は複数の穴が開けたが、徐々にドアらしく見えなくなった。

スカスカした状態になったら、アンナさんが足で蹴った。

ようやくドアを破壊した。


「今から戦場に行くぞ!」


息切れをしながら、僕に話しかけた。


「ああ、わかった」


「そこにヘリコプターがあるので、今から乗るぞ」


アンナさんの背中に追いついて、プロペラが回っているヘリコプターに乗った。

今からフレンサスとダイタの国境の間に飛んでいく。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


深い堀を掘って、軍隊が銃を持って構えている。

あちこちからドドドドド!と銃声の音がする。


地面の上には、複数の死体がほとんど埋もれている。歩く時、ふにゃふにゃとして気持ち悪い。死体の腹から長いものが出てきた。


ちらっと見るだけで、胃を逆さにした感じで嘔吐した。


「ミスター・ヤマト、大丈夫?」


アンナさんは僕の背中を優しく摩りながら、ハンカチを差し出した。


「ありがとう…ちょっと目眩になっちゃった…」


こんな残酷な戦争は実物に見たことがない。見たことがあるのは映画や漫画しか知らない。

一言で表すと言えば、まるで地獄のようだ。


「急がないと、彼らが先にやってくるわ」


彼らとは、レオ様とアレクサンドルさんだ。

僕は地面に手を付けて、嘔吐した跡を眺めた。


「わかってる。今から行く」


いそいそと立ち上がって、アンナさんと走った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


レオ様とアレクサンドルは地下にいる。

巨大なモニターが6台がある。


そのモニターに映っているのは、フレンサスとダイタが戦争をする様子。

レオ様が絶対に動けないはずなのに微かに口を吊り上げた。


「もうすぐ。もうすぐ、私の計画に近づく。フレンサスとダイタに稼ぎ時間をあげる。10分後、アレを発射する」


「はい、かしこまりました」


アレとは…人類を滅ぼさせる核兵器だ。

10分間、両国の戦争をじっくりと観戦させていただく。まるでスポーツ観戦をしてるようにしている。


人の死の悲しみが分からないレオ様は、声帯は麻痺をしているが、少し掠れた笑い声が出てきた。

レオ様の手の平の上に、ミスター・ヤマトを踊らせた。ピエロが嘲笑うように不気味な笑顔だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ミスター・ヤマト、伏せて」


言われた通りに伏せた。


「あそこの地下にレオ様達がいる」


ピクッと「レオ様」というキーワードに反応した。


「どうやって核兵器を防ぐことができる?」


「私の良い考えがある」


僕の耳元に近づき、小さな声でひそひそとした。

話終わった跡、僕はコクリと頷いた。


レオ様達に気づかれないように静かに準備をした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アレクサンドルが腕時計を見て「そろそろ10分を経ちます」と声を出した。


「そうか、ボタンを押してくれ」


「はい、承知しました」


赤いボタンの上に蓋を開けて、そっと発火作動ボタンの上に手を乗せた。


「3…2…1…」


ゆっくりとカウントダウンをしたら、一気に押した。

兵器の下に発火して、ゴォォォォォ!と地響き音がする。


同時にウイーーンと天井が完全に開いたら、次は発射ボタンを押した。

兵器が空羽ばたくように飛んでいった。


同時にレオ様達の地下の近くにいる森林から何かのロケットが発射された。

兵器より高く飛んで、そして爆発をした。


爆発されたロケットの中からひらひらと舞い上がっている。

モニターを見るレオ様の目が大きく開いた。


「これは…アルミホイル?!」


アレクサンドルさんがモニターに近づき、本当なのかどうか確認をした。


「確かにアルミホイルですね」


「いかん!今すぐ避難せよ!」


「え?なぜですか?」


「電波が狂い、飛ぶ方向が変わってしまう!」


飛ばされたミサイルは突然ぐらついた。

ふらふらになりながら、飛ぶ方向が変わり、地下の方に向かられた。


クソっと思いながら非難すると、モニターにミスター・ヤマトとアンナさんが映された。


「あ……ミスター・ヤマト、アンナさんめ!」


注意を向ける方向がモニターに映されたミスター・ヤマトとアンナさんになってしまった。

そのせいで落とされるミサイルの危機を忘れてしまった。


「クソっ…」


一歩遅れて、ミサイルに直撃された。

ミサイルに当たった瞬間にピカッと目が眩むくらい強い光が照らせられた。


その勢いをそのままにして、下から上まで伸びて爆発をした。


ミサイルが落ちたのは、運良く地下だった。

もし地下ではないと、広い領域まで爆発してたと思う。


「やった…レオ様とアレクサンドルに勝った…」


キノコのような形の輝きを眺める僕の背中に手を置いた。


「いや…まだ終わってないよ」


「うん、そうだね。次は戦争を終わらせるアンナさんに出会えて本当によかった。またいつか会えるといいね。」


僕はアンナさんを置いて、先に前へ進んだ。


「死なないで、生き残って帰ってこい!」


僕の後ろにいるアンナさんは涙を流しながら、幸運を祈ってくれた。


「ああ、約束する」


手をひらひらとして、アンナさんに別れを告げた。


ポケットの中から何かのマスクを取って、顔に身に付けた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


フレンサスとダイタの軍隊がキノコのような形の輝きとすごい地響きに気づいて、手が止まっていた。


「あれはなんだ?」


「もしかしたら別のところで兵器を落としたか?!」


「いや、それくらい強力な兵器は持ってない」


その爆発で驚いた連中が混乱になった。


爆発した方に煙で漂っている。この煙の中に人影が見えた。

少しずつ煙が晴れると、なんとガブリエルさんだ。


フレンサスとダイタの軍隊も驚いた。首相が戦場にやってくるのはあんまりない。

ガブリエルさんは、無防備な状態で恐怖を知らずに歩いていく。


右手にスピーカーをした。

スピーカーを口元に近づけて、一気に大きな声を発した。


「戦争の混乱に導いたのは、僕だ!」


左手に契約書を持ち上げて「この契約書は偽物だ!そして、僕はガブリエルさんではなく、ヤマトだ!」

スピーカーと契約書を地面に落として、顔マスクを外した。


フレンサス軍の二人がやってきて、自分の体を地面に押さえた。

両手を揃えて、手錠をかけた。


「ヤマトさん、ここで逮捕する!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


警察署の取調室で取調官と向かい合い席で座った。


テーブルの上にホワァと弱目の光量で照らす電気スタンド。

取調べ官の後ろに中年の男性が、背中の後ろに両手を握って立っている。


取調官は退屈そうな顔にして、封筒の中から資料を取り出してテーブルの上に投げた。


「君の経歴だ。どうやら君の家庭は裕福だな。お金に困らないのに、なぜスパイになった?」


「・・・」


取調べ官の威圧が凄すぎて、自分の体が声を出すのを拒否していた。

はあとでかいため息を吐いて、もう一度、封筒の中から取り出して置いた。


「これは…」


家出をするときの写真、レオ様と会った時の写真、ガブリエルさんに変装する時の写真など今までの自分の行動を撮られていた。


トントンと写真の上に叩いた。


「どれが本当のヤマトさんなの?」


「え…?」


「今まで君を監視をしていたけど、時々人格が変わってるようだ。どれが本物なの?」


これも口を開くことができなかった…


「本当なのかどうか分からない。ただしここで言えるのはこれだけだ。俺の勘だけど、多重人格ではないか?」


「多重人格…?」


「そうだ、ほとんどはエリートな家庭で発症する確率が高い。両親は子供の将来に期待を背負わせることが多い。高いストレスから自分を守るために別の人格が現れて、別人格が対応してくれる。どう?違う?」


思いも寄らない言葉をかけられて、驚いて目を大きくした。

無意識に口を開けた。


「…はい、そのとおりです。自分の中で相手に応じて別人格と交代します。本当の自分は後ろに別人格が操るのを静かに眺めるだけでした」


「…やっぱりか…今のヤマトは本物?」


「いいえ、違います」


「そうか、今から本物のヤマトに変えてやれ」


「わかりました」


静かに目を閉じて、2秒後瞼を開けた。


「取調べ官ですね。初めまして」


一瞬に変えたらしいけど、容姿はまったく変化はないので気づかない。しかし、どこかに暗いような気がする。

さっきのヤマトは目の奥に輝きが見えたが、今は瞳に曇りが漂っているように見えた。氷のように冷えている。


「君が本物のヤマトか…大分印象が変わったな」


「ええ、これが本当の自分です。僕は心のない人間です」


ヤマトさんの一言を聞くと、ゾッと身が震えていた。

本来に持つ人間心を失われて、まるでロボットのようだ。


再び、ため息を吐いた。


「わかった、君の事情は大体わかった。短い期間だけど、スパイの君の評価は優秀だな。スパイをやめて、ここで働いてみない?」


「え…?僕が警察になって働きます?冗談を言わないでください。だってさ僕は国家を侵害したので犯罪です」


横を振って、僕の言葉を否定した。


「そうだが、君はまだ未成年であるし、君の才能を潰させるのは勿体無い。騙す才能もある」


「才能…」


またしても才能があると言われた。

僕は悪としてではなく、善として役に立つことができる。


僕でも役に立てると考えるだけで嬉しくなる。


「あれ?なんで涙が出てる?」


突然目から涙が溢れてきた。

涙が出るのは幼少期以来?泣くなといつも両親に言われたので、泣きたくても泣けなかった。


でも、今なら自然に涙を流すことができた。

頬に濡れた涙を裾で拭いた。


「すみませんでした。なんか嬉しくて…自然に涙が出てきた」


嗚咽を交じりながら声を出した。

取調べ官はガタンと立って、僕のところに近づいた。


「よしよし、大丈夫だ」


優しいな声かけをして、背中をさすってあげた。

あまり優しさに惹かれて、さっきより増して泣いていた。


自由のない僕が、新たな希望の光に当てられた。警察のおかげで閉じ込められた自分は新たな道を開けた。


家の中に篭り続けると自分は変わらない。

家出は無意味ではなかった。家出をしてよかった。


色々な人と出会えて、本当に幸せだった。色々な人に世の中のことを教えてもらって、自分の心も成長していく。

僕の才能を悪として使わない。善として戦う。

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多言語を操る少年がスパイになった? 龍川嵐 @takaccti

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