第6話 ロボット忍法分身の術!
「がっ……」
悲鳴は慧矢の口から発せられた。よく日に焼けた彼の右の二の腕に、手裏剣が深々と刺さっている。鮮血が傷口からぶわっと噴出し、赤い雫を地面に吸わせていた。
「そんな……五体もいたなんて」
一体でも脅威であるロボットニンジャが、五体も……絶望的な状況に、優樹は大いに弱った。これでは殆ど勝ち目はない。
五体のロボットニンジャは、間髪入れずに追撃をかけてきた。五人一斉に脇差を抜き、優樹に向かって突進してくる。
「
本来魔法の行使に言葉は必要ない。これはある種の宣言のようなものだ。しかしながら優樹の言葉通り、五体のニンジャは優樹に切りかかる寸前でぴたりと、まるで凍りついたかのように止まったのであった。
はぁ、はぁ、と、優樹は冷や汗をかきながら息を切らしている。取り敢えずピンチは切り抜けたとはいえ、五体の敵を一気に撃破する術は思いつかない。一体自分は何がどこまでできるのか、この少年は完全に把握しているわけではないのだ。
「ユウ……奴は一体だけだ」
慧矢は眉根に皺を寄せ、苦悶の表情を浮かべながら優樹に教えた。
「え?」
「四体は実体のない分身だ。ホログラム映像か何かだろうな」
考えてみると、慧矢の言うことはもっともであった。敵は一斉に手裏剣を投げてきたのに、慧矢に刺さっているのは一つだけだ。
慧矢は手裏剣が刺さったままの右腕を持ち上げ、掌から青いロープを繰り出した。ロープはニンジャの脇差を絡めとり、右手から取り上げて地面に放り投げてしまった。
「……後はユウ、頼んだ」
「分かった」
もう俺がやれるのはここまでだとばかりに、慧矢はがっくり膝を折った。顔色に表れている以上に、手裏剣による負傷で苦しんでいるのだろう。
それとタイミングをほぼ同じくして、止まっていたロボットニンジャが再び動き出す。いつの間にか他の四体は消えていた。
武器を奪われたロボットニンジャは、徒手空拳のまま優樹に襲い掛かってきた。優樹は何かしらの魔法を発動させようと右手を前に突き出したが、その前にニンジャの右拳が優樹の痩躯を打ち据えた。殴られた時の感触から、ニンジャの拳は硬い金属でできていることが分かる。
これまで目を見張るような魔法をいくつも繰り出した優樹であったが、所詮はただの男子中学生だ。肉弾戦では殺人ロボットに分があると言わざるを得ない。
右脇腹を殴られてふらふらの優樹へ、ニンジャはさらにもう一撃を加えてきた。優樹は咄嗟に両腕で顔面を守り、打ち込まれた左フックを右腕で受け止めたのであるが、ニンジャの一撃は重く、後方に大きくのけ反ってしまった。
「うっ……くっ……」
魔法で反撃しようにも、肉弾戦に持ち込まれてしまえばその隙もない。殴られた所に走る激痛が、優樹から思考を奪い去ってゆく。拳をまともに食らった右脇腹も右腕も、ぷっくり赤く腫れあがっていた。
優樹の心に、再び弱気が巣食った。せっかくここまで上手くやれていたのに、結局最後は圧倒的な暴力の前に惨たらしく
唯一良かったことは、同じ秘密を抱えた親友と共同で戦えたことだ。その親友――慧矢も、自分を守るために戦って傷ついてしまった。自分さえいなければ、きっと慧矢を巻き込むこともなかったのかも知れない……それもまた、やるせないことであった。
そんな優樹に対して、ロボットニンジャは全く憐憫を垂れる様子など見せなかった。冷徹な機械人形の拳が、目の前の小さな少年を撲殺せんと振るわれる。
――その時であった。
拳を振りかぶったニンジャが、何かに右足首を引っ張られ、滑るようにしてうつ伏せに転倒したのだ。
「……間に合った」
「ケイ!」
慧矢は後ろから青いロープを繰り出し、ロボットニンジャの右足首に巻きつけていた。それを引っ張り、優樹に殴りかかろうとするニンジャを転倒させたのである。
「……ユウ、今度こそ終わらせよう」
「……うん」
優樹は落ちていた脇差に右手をかざした。先ほど慧矢のロープによって放り投げられたものだ。優樹は脇差を宙に浮かせると、それをニンジャ目掛けて飛ばし、その背中にぐさりと突き刺した。
刃が突き刺さったロボットニンジャの体に、バチバチと電流が走った。優樹の魔法で、脇差の刃に電気をまとわせたのである。ニンジャはまるで痙攣したかのようにびくびくと震えたが、やがてその動きも止まり、背中から黒い煙を細長く吐いたのであった。
優樹は糸が切れたかのように意識を失い、ばたりと倒れてしまった。
――戦いは、終わったのだ。
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