第3話 友の正体

「ケイが魔法使い……?」


 優樹にとって、それはあまりにも衝撃的な告白であった。「自分が魔法使いであることを明かそうとしたら、逆にその相手も魔法使いであった」なんて、そんなことを果たして想定できるだろうか。

 けれども、優樹にとってそれは喜ばしいことでもあった。ケイも自分と同じ秘密を持っていたんだ、と、優樹は自分が忍者に命を狙われていることさえ忘れて密かに歓喜した。

 そして……優樹は意を決した。慧矢も同類であるなら、もうひた隠しにしておく必要もない。友の間に、隠し事は無しだ。秘密を明かしてしまおう。そう考えたのであった。誰にも言えない秘密というのは存外に重たいもので、ずっと抱えて生きていくには疲れるものだ。それを無二の友と共有できるなら、こんなに嬉しいことはない。


「け、ケイ、実は僕も……」

「ああ、実は知ってるんだ。ユウも魔法が使えるんだろ」

「えっ……知ってた? いつから?」


 慧矢の言葉は、またしても優樹を驚愕させた。魔法のことは誰にも他言していないし、人の見ている前で魔法を使ったこともない。なのになぜ慧矢は知っているのか、優樹は気になって仕方がない。


「……もう隠してもしょうがないよな。ユウが転入してくる少し前から、俺の父さんに聞かされてたんだ。お前の学校に勧修寺優樹っていう魔法使いが転校してくるから、見張りつつ危険が迫ったら守れって」

「ちょ……どういうことなの? ケイのお父さんが僕のこと知ってたって言うの?」

「うちの父さんとユウのお母さんはさ、遠縁だけど親戚同士なんだよ。それで色々と連絡取り合ってるから、俺んはユウの家の事情知ってるんだ」

「そ、それじゃあケイが声をかけてくれたのって、お父さんに言われたから……?」

「ああ……そうなるな……」


 優樹は途端にしょげた顔になった。結局慧矢は純粋な友ではなく、父に言い渡された任務によって近づいてきたにすぎなかったのだ。

 これまでの人生において友と呼べる人などただの一人もなかった優樹にとって、慧矢は初めてできた気の置けない親友であった。少なくともこの一年の間、ずっとそう信じてきた。それゆえに、友と信じた相手が他意をもって自分に接していたということが、この少年を大きく落胆させたことは言うまでもない。優樹は慧矢に裏切られたとまでは思わなかったものの、心の内には暗澹たるものがもやもやと渦巻いている。

 慧矢はばつが悪そうに下を向き、無言を貫いている。かける言葉を必死に探しているが、なかなか見つからない……といった風に。

 二人の間にたちまち気まずい空気が流れ、互いに床を見つめながら押し黙った。窓から差す日差しが、緊張と疲労で赤らんだ二人の頬を照らしていた。


 そんな、二人の間に流れた静寂を、窓ガラスが割れる音が打ち破った。灰色の忍者装束を着た侵略者が、ガラスを割って入ってきたのだ。優樹の体に、ぴりりと緊張が走る。優樹が立ち上がるのとほぼ同じタイミングで、慧矢が優樹と忍者の間に割って入るように立った。


「もう拘束が解けたか……俺に任せてユウは逃げろ。魔法使うなって釘刺されてるんだろ?」

「で、でも」

「俺のことはいいから早く!」


 強く言われた優樹は黙って頷き、引き戸を開けて廊下に出た。それを見送った慧矢は、窓から飛び込んできた忍者を前に立ちはだかる。慧矢は単独で忍者と戦おうというのだ。


「まさかこんな白昼堂々襲ってくるなんて思わなかったな。いや、それも策の内か。大勢の前じゃあ戦いづらいもんな」

「……マホウツカイ」

「昨日は取り逃がしたが、今度こそお縄についてもらうぜブリキの忍者さんよ」

「……マホウツカイ、コロスベシ」


 挑発的な言葉を投げかける美少年を前に、忍者は恐らく男性の低い声に似せて合成したのであろう、機械的な合成音声を発して返答した。忍者の顔面で唯一布に覆われていない目の部分が、人工的な赤い光を二つ灯らせた。

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