第49話 将来の夢
串焼きを一本と食べた時にムスリの顔をチラリと見たら、もう泣いてはいなかった。目はうるうるだったが、鼻を赤くして串焼きを口に運んでいた。
俺はもう一本の串焼きに移る。
「そう言えば君の名前を聞いてなかったね」
「俺の名前はモブオだ」
「モブオ君ね。モブオ君は強いんだぁ、私とは大違い」
「俺が強いのは当たり前だ、最強だからな!」
ムスリはフッと笑い、「将来は勇者様だね」と言う。
「勇者なんてやらん」
でも俺はその未来を首を左右に振って拒否した。
「そうかぁ」
「ムスリは将来なにをするんだ?」
俺の将来を勇者なんかと言ったムスリに聞き返す。
「う〜ん、決められないかな。十年後には首輪が外れて、いっぱいの仕事をやりたいし、汚い私を愛してくれる人がいたら結婚もいいかな」
決められないよ、と小さく呟くムスリ。
十年後か。ムスリはいつから奴隷になったんだろうか。
助けてやりたい。そんな余計な正義感が俺の頭を支配する。
ヤバいな。子供になってからブレーキが効かなくっているし、今の俺には無いはずの1000年あいだに薄れて消えてしまったはずの正義感。
転生者の真似事を俺をしようとしている。
ガブッと串焼きを一気に食べると、シュタッと立ち上がる。
「あと十年経ったら迎えに来る。死ぬなよ」
「えっ?」
ビックリしているムスリを残して、ブーンと走って帰った。
世界樹に戻ると、影を薄くして隠れながら俺の部屋に入る。
ふぅ、見つからなかったようだ。
「お兄様、お帰りになったのですか?」
ドア越しでノエルが聞いてきた。ノエルに居留守はバレるので声を出す。
「うん。少し体調が悪いから飯はいらない」
「なんか、声が高くなってませんか?」
「なんのことだよ」
「あぁ、小さくなったことは知ってますよ?」
知られていただと?
「あと気配遮断もおざなりでバレバレでしたよ。子供になったら頭も子供並みになりますし、力も半減以下になっていますね」
マジか。
俺は観念して扉を開けるとノエルはスっと俺を抱きかかえて、俺の部屋じゃない食事をする部屋に運ばれていく。
そこには俺が生贄で用意したソフィアも居て、俺はノエルと一緒の席に座る。
もうテーブルには食事が並べられて、子供用の食器が目の前に置かれていた。テトナに聞いたのか? いや、ノエルなら俺が世界樹の下に着いた時には分かっていそうだ。
気配遮断はバレバレだと言っていたしな。
「誰その子? まさかノエル、貴女の子?」
「いえ、この子はお兄様ですよ」
ソフィアに視線を合わされて俺は無駄に胸を張る、エッヘンと。
「あぁ、だから顔が馬鹿そうだと思った」
言われ慣れていることだ。そんなことでカリカリはしない。
「私、モーブルにめちゃくちゃ睨みつけられているんだけど」
「はい、お兄様は子供化で少々大人げなくなっています。だから挑発行為はご遠慮ください」
「わかったわよ」
ソフィアには生贄になってもらった恩があるから、今回は勘弁してやる。
「そうそう、ノエルのお菓子パーティーに呼んでくれてありがとう。ノエル、また腕をあげたわね」
「嬉しいです」
コイツ、全部食ったのか。
「ムークリ王国は勇者が不在で大変なのよ。ノエルに話を聞いてもらいながらのお菓子パーティーは最高に息抜き出来たわ」
俺はノエルとの旅が一番の優先である。ソフィアが勇者になってくれと頭を下げたが、俺はムークリ王国の勇者は二度とごめんだと言って拒否した。
ムークリ王国は勇者に頼った政策の結果の皺寄せが来ているに過ぎない。ざまぁみろだ。
勇者が居て初めて人族は種族の頂点にあった。それが勇者が無くなり、そのヒエラルキーから人族が転げ落ちるさまはいつだろうかと楽しみでならない。
「ソフィア、お前も考えて置いた方がいいぞ。人族至上主義はもう終わったんだからな」
人族は弱い。勇者がいないと分かれば、あっという間に他の種族に立場が食われる。
それをソフィアが今は騙し騙しバランスを取りながらやっている。
「人族は大きくなりすぎた。一回膿を出し切るのも良いと思うわよ。だって貴族とか、馬鹿ばっかりなんだもん。でも人族は馬鹿ばっかりじゃないもの。人族全体が終わる時には王国の王の私も一緒」
「まぁ、俺がいなかったら随分前に全員終わっているけどな。な〜にが王国の王の私も一緒に終わるだ。お前が終わったら人族終わっちゃうじゃん、お前は逃げろよって。
1000年も生きて来て、子供一人も出来ないとか終わってるのはお前の……ムグッ!」
ノエルが俺の口に唐揚げを入れた。
美味しい!
やっぱりノエルの料理はさいこぅだぜ!
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