第50話 あの頃
なぜか夜飯のあいだソフィアが何も言ってこなくなったが、本当にノエルの飯は美味い!
夜飯を食べたあと、ノエルに神器の弓を貸してソフィアを帰らせた。食事中には喋らなかったが、またノエルの料理が食べたいから呼んでねと言っていた。
そのあとも俺はノエルに抱えられて、テトナの部屋にやって来ていた。
ノエルに聞くと、「テトナちゃんに言うことがあるんですよね」と、次の俺の行動まで見透かされていたとは思っていなくて、ノエルに戦慄を覚えてた。
これも子供になってからの弊害と言う奴か。まぁ、よくよく考えたらノエルが俺の害になることなんてないから、弊害は取り消しだ。
「なにかな? 奴隷を解放しろと言うのは私の権限ではどうにも出来ないから困るんだけど」
テトナは俺が奴隷に会って、心が動かされていたと言うことは、もう知っているみたいだ。
「いや違う。奴隷の名前はムスリ。そのムスリを妖精の国にいる間は見てやってくれ」
「見るだけでいいの?」
「あぁ」
座ってるテトナに真剣に眼差しを送る。
「わかったよ。でも本当に見るだけだ。分かっているの? 本当に? ここでの10年は死ぬよりもキツいんだよ」
「それでもだ。誰かに殺されなければいい。でも、自分から命を絶つのはしょうがない」
そう、しょうがない。奴隷に落ちた人でも生きてされいれば、またやり直せる。
奴隷に落ちる人、中には自業自得な人もいるが、大抵は運が悪かった。で、奴隷に落とされる。
子供とかは特にだ。運が悪かったと頭で思う度に、いらない正義感が顔を出す。
なにも考えずに子供になるんじゃなかった。
「へぇ、まさかノエル以外に君が気に入る人がいるなんて思わなかったよ。ノエルはそれでいいの?」
「はい、お兄様が小さい頃の勇者になりたいと言っていたお兄様に戻って、懐かしくもあり、新鮮でもあります。
あの頃のお兄様を私は見上げるしか出来なかった。そしてお兄様は何処までも輝いて見えてたのです。それが私が抱えられるぐらいのお兄様になってしまって、幸せです」
ノエルは俺の頭を撫でている。
抱えられてずっと思っていたが、大きい柔らかい胸が頭に当たっている。胸は柔らかくて温かくて気持ちいい。
今では俺の身体全体をノエルに預けている状態だ。
「今も昔もお兄様はカッコイイです」
フッ! ノエルの前ではカッコつけていたいからな!
「いや、今の状態を見て、カッコ良さは微塵もないんだけど」
「今の俺の状況? お兄ちゃんが妹に甘えて何が悪い!」
キッ! とテトナを睨む。が、ノエルに頭を撫でられて、目が緩む。
「まぁまぁ、話は終わったので失礼します」
ふにゃふにゃとなっている所を抱きかかえてられて、次はどこへ行くのか。
カポーンと、ししおどしの音が鳴り響く。
これは……露天風呂だ!
ここは世界樹の温泉だ。詳しくは分からないが、土から水を吸い込んで葉に行き渡らせるまでに、水は熱を生む。その熱を水と一緒に出して木の中の温度調節を行っているらしい。
水にたっぷりとマナが含まれていて、浸かっていると空も飛べそうになるほど身体が軽くなる。
マナを纏ってことがない人でも、簡易的に纏えて、身体のマナも循環が良くなる。
俺は世界樹の温泉を朝と夜に毎日入っていた。テトナからそんなに入るなと言われて、どうしてか聞いた。
そこでこの温泉は世界樹から出ているのを知った俺は「へぇ、テトナの汗にこんな効果が」と、感心していたら、何故か温泉に入ることを禁じられた。
後ろを振り返るとバスタオル姿のノエルが居た。
「いいのか?」
「はい」
「フゥー!」
走って飛び込もうとしたが、ブレーキをかける。
待て、ここで飛び込んだら、また出禁をくらいそうだ。
まず身体を洗う。椅子に座ると、洗面器にお湯を溜める。
「お兄様、身体を洗わせてください」
「いいぞ。俺がノエルとお風呂に入るのは随分久しぶりに感じるな」
「何十年かぶりですね。私の一緒にお風呂に入りたいと言う願いを聞いてくださった時です」
「毎日入ってもいいぞ!」
鏡を見ると、ノエルはお風呂に入っていないのに頬が赤く染まる。
「ひ、久しぶりだからいいんじゃないでしょうか」
「まぁ、う〜ん。そういうもんか」
「はい」
ノエルの柔らかい手で全身を洗って貰う。胸が時々当たっていた、服を着ている時よりも柔らかかった。
ノエルとお風呂さいこぅだぜ!
身体を綺麗にしたら、次は……トトトトトッ! と、温泉に向かって飛び込む!
禁じられた温泉。ノエルがテトナに言って、禁を解いたのだろう。
ノエルも身体を綺麗にして、温泉に浸かった。
「お兄様と温泉に浸かれ幸せです」
「俺もだよ」
俺はノエルと一緒に空を見上げて、夜の星々を線で繋いで遊んだ。
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