第48話 毒
二刀流の串焼きを走りながら口に入れる。
ウマウマと顔の筋肉が崩壊しているが、走っているからか、周りの感知は忘れない。
すぐさま路地裏に入る。
「ここまでこれば追手は来ないだろう!」
追手など、来るはずもないのだが俺の口が勝手に喋る。
串焼きを一本食べ終わって、次に二本目と口に運んだ時に路地裏の先客と目が合う。
「なんだお前は!」
獣人の男が俺を睨みつけながらグルルと威嚇する。
その獣人の男の後ろを見ればもう一人の男の獣人と、その獣人に口を押さえ付けられている奴隷の女の子がいた。
さっきベンチに座ってた時に会ったムスリという名の女の子だ。
「お前に名乗る名はない。その女の子を離せ。殺すぞ」
二人の獣人は声を押し殺したように笑う。
「ちっちぇ勇者さんかよ、やってみろよ」
「じゃあやってや……」
ビタンと地面に転んだ俺。
獣人たちは大爆笑だ。
「どうすんだよ」
俺の声に殺気は滲み出す。
俺がムクリと起き上がる頃には誰も笑ってはいなかった。
「俺の串焼き!」
地面に転んだことで、串焼きが砂で食べられなくなっていた。
「うぅわぁ!」
俺の近くにいた殺気で臆した獣人が拳を振り上げて襲いかかって来た。
軽く飛んで、俺の三倍近くある身長の優に超えると、獣人の頬を蹴って横に吹き飛ばした。
「お前何者なん、うグッ!」
獣人の口に食えなくった串焼きを投げ入れる。
「だからお前らに名乗る名はねぇって言ってるだろ!」
口に串焼きを入れられ獣人は堪らず女の子を離した。そして俺は拳を握り、獣人が口に頬張っている串焼きに向かって振り抜いた。
その串焼きは獣人の頭を貫き、壁に刺さった。
「お前らのせいで俺の串焼きが……」
俺は女の子と手を繋ぎ、とぼとぼと路地裏から出た。
獣人の衛兵に路地裏のゴミ処理を頼んで、俺は奴隷の女の子と串焼き屋に並んだ。
衛兵も純粋な子供が獣人が死んでいると言ったら、怖かったねと言って俺の身を案じてくれた。
テトナは俺の行動を見ているだろうし、テトナが何とかしてくれるだろう。
人を殺したから俺のカードは赤くなっている。まぁ俺は魔法のハンカチがあるから人を殺しても拭けば元通りだ。
勇者は人を殺す職業だからな、俺が殺したのが獣人でも関係なくカードの赤が落ちる。
人を殺せば人殺しと言われ、人以外を殺せば勇者と言われる。この世界は人族を中心に回っているから魔王の出現もあとを絶たない。
奴隷の女の子、ムスリは魔法のハンカチでカードを拭いている時はカードと俺を交互に見ていた。
まぁビックリするだろうな。勇者に始まり、この魔法のハンカチは世界でも持っている人が十人もいないんじゃなかろうか。
ハンカチを持っている人はそんなに多くないが、最初から赤くならないカードは結構持っている奴がいる。
勇者の時に持っていたカードも最初から赤くはならない。ノエルのも、上の層の貴族とか王族とか、テトナも……案外いっぱい居る。
串焼き屋で悪い人に出会って串焼きを落としたと言ったら一本の値段で三本も串焼きをくれた。
「ありがとうな!」
「ありがとうございます」
俺はムスリに手に持てない串焼きをあげる。そして串焼き屋の店主に感謝をしてベンチへ走って行った。
ベンチに座ると無我夢中で、肉を頬張った。
「さいこぅだぜ!」
遅れて、ムスリがやって来て、ベンチに座る。
「あの、さっきはありがとうね」
「俺の身体では三刀流は無理だ。だからムスリにやった」
「……ん? いや、違うから」
「何が違うんだ?」
俺はムスリの言葉にハテナマークを浮かべた。
「獣人から助けて貰ったこと」
「あぁ、別にいいぞ。でもなんで路地裏に連れ込まれたんだ?」
俺は気になった事を聞いてみた。
「それは妖精の国では人に恨みを持った獣人が少なからず居るんだ。でも大人しくしておけば帰してもらえる。獣人も私で吐き出したいだけなんだと思うんだ」
ムスリは笑顔だが、目に涙が溜まって溢れた。
「あれなんでかな」
スカートからハンカチを取り出して、涙を拭いている。でもムスリの涙は止まらない。
「もう涙は枯れたって思っていたんだけどな」
大人しくしておけば帰れる、か。
失敗した。
助けなければ良かった。俺はムスリに希望を見せてしまった。
妖精の国では希望は毒にしかならないのに。
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