第47話 二刀流


 俺はベンチに座りながらソフトクリームを食べている。


 ぺろぺろ、ぺろぺろ。


 口周りがベタベタする。


 俺こんなに食べるの下手だったっけ。子供になってから幼稚な考えが過ぎるし、身体も上手く扱えない。


 口も手を足を小さいから、大人のような感覚でいると子供の身体は不便だなと思う。


 ソフトクリームを販売している獣人のお姉さんに貰った紙で口周りを拭く。



「私と一緒の人族?」

「はっ! お前は誰だ!」


 この俺が気づかなかっただと!?


 俺と一緒のベンチに座り、可愛らしい格好の女の子だ。身長は女の子の方が頭一つ分ぐらい大きい。それに妖精の国じゃ珍しい人族だ。


「ごめんね、私はムスリ。無我夢中に食べてたからアイスを口から離すまで待ってたの」


 俺……周りを気にしないでお菓子を食べていたのか? この女の子が俺の感知に引っかからないほどに気配遮断を極めている訳もないから、俺は周りを気にせずにソフトクリームを食べていたことになる。


「待ってたの? じゃあ俺に何かよう?」

「お父さんやお母さんはどこにいるの?」

「いないよ、俺はココに妹と来ているんだ!」


 俺はソフトクリームはぺろぺろしながら、女の子と話す。


「妹さんと!?」

「うん!」

「へぇ、そうなんだ。身なりは良さそうだし、心配ないか」


 女の子は、うんと言ってベンチから立ち上がる。


「暗くなる前に帰るんだよ」

「うん」


 女の子はどこかへ行ってしまった。



 女の子の首には大きい首輪が嵌められていた。あれは十中八九、奴隷だろう。わざわざ奴隷ですよと言うファッションがあるなら別だが。


 今の女の子は肌が痩せこけていないし、匂いを良い、服も丈夫だった。


 妖精の国で奴隷として働くとは、あの歳でシッカリしているのも分かる。


 奴隷は金持ちしか手が出せない物だ。買った奴隷には三食の飯、住む所、着る物。そして給料を与えないといけない。


 で、給料と別で主人が奴隷商から買った分の仕事が終わると奴隷商が来て首輪は外れて自由になり、奴隷じゃなくなった奴隷は新しく主人から貰った給料で自分の生活を送る。


 これが奴隷だ。


 奴隷の首輪は奴隷の安全を守るために付けられていると言ってもいい。


 主人は奴隷に殺す以外は何をやってもいいが、殺すに近いことをやったら首輪の力が働いて、奴隷商に通報されてしまう。監禁されたり、住む所、飯、給料、衣服を与えなかったりしたら奴隷商が来る。


 それ以外には何をしても文句が言えないのが奴隷だったりする。


 貴族で奴隷商に逆らう奴を見たことが無い。奴隷商に喧嘩を売る奴は転生者ぐらいだ。


 転生者は奴隷の首輪をユニークスキルで解除して、その奴隷は悲惨な最後を迎えることになる話をここ1000年で数え切れないほどに聴いた。


 奴隷は首輪がないと、衣食住と稼ぐ場所を取られるんだからな。しかも転生者が奴隷から解放するのが美女、美少女ばかりと下心が丸見えだ。


 奴隷商のトップ、マド・ラックーサは勇者パーティーの仲間だ。


 マドは勝気な女で、ノエルのお世話クエストは毎週参加してたな。「ゴミはゴミらしく、人は人らしく」というのをマドがずっと言っていた。


 俺には何だか分からない。



 俺もベンチからシュタッ! と降りて、ソフトクリームのコーンをかじりながらブラブラと妖精の国を散策する。


 クンクンと肉の良い香りがする。ブーンと走って、列に並ぶ。



 おぉ。


 炭焼きで俺の腕ぐらいある串に豚バラのような肉汁が滴るデッカイ肉が付いている。


 この肉が光って見える! うわぁ。ジュルルとヨダレを垂らす。


 俺の番に来るとカードで金を払い。男の獣人から店の外に出て来てもらい、串焼きを貰う。


「お兄さんありがとう!」



 元気よく挨拶をしたということで、もう一本はオマケと言うことで貰ってしまった。


 両手に串焼きの剣を持ちながら歩いていると、周りの獣人たちは俺を見て微笑む。


 まさか俺の串焼きを取るんじゃないだろうな!


 少し警戒しながら串焼きを口に運ぶ。


 ジュワッと肉汁が口の中に溢れて、ウマウマ。


 ハッ!? 危ない危ない。ソフトクリームみたいなことが起きるとこだった。


 また食べるのに夢中で周りの感知をしていなかった。


 次はそんな事はしない。


 串焼きを口に運ぶ。


「あぁ、ウマウマ〜」

「僕、僕!」

「お前は誰だ!」

「誰だっていいよ。そんなことよりも、串焼きに夢中で歩いていたら危ないよ。家の店の椅子に座って食べ終わってから外を歩きなね」


 ツンツンと肩をつつかれて、やっと気づいた。コイツは出来る!

 

「嫌!」


 俺は二刀流を武器にブーンと走って逃げた。


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