第46話 お菓子


 俺は妖精の街を歩いている。


 ノエルが作る三時のおやつが腹に入らないと思い、逃げてきたのだ。


 神器の弓でムークリ王国から配達した生贄は置いてきた。今日のおやつは焼きプリンにシュークリームとカヌレだったか? 今頃、ソフィアがテーブルいっぱいのお菓子をたらふく食べているだろう。


 ノエルは橋が修復されるまで妖精の国にいると言うし、橋が修復されるまであと何年かかるんだ。


 俺はノエルに着いて行くし、何年かかろうといいんだけど。


 海を渡る方法は走って渡ったり、飛んで渡ったりとか、神器の弓で転移したりと簡単だが、ノエルはもう少し妖精の国に居たいのだろう。


 もう1000年も生きたんだもんな。ノエルにいたっては神の頃の記憶も持って、もっと長く生きたことになる。


 チェンジ魔法で勇者からモブオになった。霊薬もないから俺は人の寿命で死ぬんだろうか。


 沢山の生死を見てきた。次は俺の番か。


 でもノエルには生きてて欲しいなと、勝手に不死の楔を与えて、その俺は寿命で死にますじゃ話にならん。


 テトナの神の役割は成長。俺とノエルが赤ちゃんに戻されたと言うのがテトナの刀の力だったりする。


 刀を使うか、テトナに頼めば霊薬がなくても寿命を伸ばすことは可能だ。


 じゃあ寿命とか考えなくていいようだ。そうか、シャリルが神の力を失っても寿命で死ななかったのは神器の刀があったからだったのか。


 霊薬も最後に飲んだのはノエルだった。ノエルは霊薬をお茶に入れて飲んでいたな。


 霊薬は瓶に入ってて、一滴でも飲んだら不老不死になれると言うものだった。


 1000年前だから記憶が定かではないが、霊薬は結構余っていたような気がする。その余った霊薬はどこにいったんだろう。


 ノエルが持っているのか? 俺がどこかにやったのか?


 どっちでもいい事を考えながらフラフラと街を歩く。


 神器の刀があるんだ、寿命は操作できるし、ノエルを一人にすることも無い。


 そう思ったら何となく目的地が決まる。




 妖精の国の服屋に入った。


 この服屋は女服と子供服が多いと思う。男物がない。


「なんでしょう」


 獣人の女の店主が手と手をさすり、チラチラと俺と自分の店の服を交互に見ている。この店主はお前が探している物はココにないですがと、暗に言葉で言わずに行動で示してくる。


 男物の服が欲しかったら向かいの店に行っている。店主には俺の腰ぐらいの男の子の服が欲しいと言う。


 店主は納得して、子供服を見繕う。


「えぇと、お子様は人族ですよね」

「あぁ」

「そしたらシッポが出る穴は閉じますね」


 店主はそう言うと、ズボンのシッポが出る穴を縫い始めた。


 そうか、ここは妖精の国で人族とかは滅多にいないんだ。獣人は人型の獣人もシッポは生えているから、ズボン一つとっても人族とは違うんだ。


 俺の目の前に出てきたのはジャケットとティーシャツ、ズボンとシンプルな物で統一されていた。


 金をカードで払って、紙袋はいいと試着室に入る。



 ポーチから神器の刀を取り出す。左手のひらに刃を向け、刀身を置くと手のひらから血が垂れる。


 左手で刀身を握り込むと、段々と萎んでいく身体にワクワク感と不安感が押し寄せる。


 左手から刀を外して、ポーチに入れる。杖を取り出して、すぐにポーチへ仕舞う。


 左手の傷も治って、服をチェンジする。


「あの〜すいませ〜ん」

「はいはい、どうされました!」

「靴下と下着は置いてないんですか?」

「あ、はい。すいません」


 俺の声がやけに高くなる。これが声変わりする前の声か。


 試着室のカーテンから出た俺を見て、店主がビックリしてたが、子供用の下着と靴下を持ってきて貰えた。


 お金はカードで払い、下着をチェンジする。


 ポーチに子供用の靴下、俺が着ていた服、靴をしまった。ポーチの腰に掛ける長さを調節する。


「よし! ありがとうお姉さん!」

「は、はい」


 俺は裸足で走って服屋を出る。



 次は靴屋だ! と思い、靴屋を目指す。


 靴屋の場所は妖精に聞いた。難なく靴を手に入れて、服屋で買った靴下を履き、靴を履いた。


「ふふふ、俺は無敵だぁ!」


 何が無敵かは分からないが、少しだけ子供の時の俺が出てきている。


 ヤバいな。何がヤバいって、まだ慣れてないから考えの違いがわかるが、慣れたら分からなくなることだろう。


 まぁ、大人の感覚がある内は大丈夫だ。



「わぁ、お菓子だぁ」


 目の前にソフトクリームがあった。俺は目をキラキラさせながら、列に並んだ。


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