第42話 化け物


 シャリルは勇者が居たから脅威だったわけで、シャリル単体ならそこまで怖くはない。が、油断できる相手ではない。



 まずは集中して、光速に変化する矢を一本一本たたっ斬ってやる。


 瞬きの時間に通り過ぎているだろう俺を狙う沢山の光の矢。


 斬るは、少々語弊がある。矢を撫でるだ。


 光の線で見える矢は撫でるだけで逸れていく。矢は俺の身体には当たらない。


 永遠と続くような一瞬の時間。





「化け物が!」


 その一瞬はとうに通り過ぎた。


 俺は人だ。人並みに人なのに神を名乗っている奴に化け物なんて言われたくないが。


 人から外れた事をしている自覚はあって、神と名乗る奴にも俺が化け物に見えるのか。


 シャリルは時間停止の剣を持っている。俺は一瞬と戦っている間にポーチから出したのか。


「貴方、レクシアの剣を使わないんでしょ」

「あぁ」


 俺はレクシアの剣を地面に刺して、地面から小石を取り、小石がタダの剣に変わる。


「これでいいか?」

「分かっているの? 私は今から時間を停止するのよ」


 俺は溜め息を吐く。


「戯言は良いから早くしろよ」

「記憶を失っても、貴方は嫌な奴よ」


 時間停止の剣が空を切る。


「さようなら」


 シャリルが別れの言葉を残した。




 集中。


 マナを極限まで加速させる。


 剣を地面に当てて、その時を待つ。


 空間に傷を付けて、完全に止まるまでには間がある。


 音が無くなったタイミングで、動きが止まり、静止の時間が生まれる。


 加速する視界の中で時間の流れが見えた。


 空間に傷を付けたところから円状に静止の力が働いている。


 静止の力が俺の目の前に来た時に、剣を地面から空に向かって振る。


 ビリビリと、ビリビリと、俺の剣が速すぎるのか、時間停止の空間と剣の間に摩擦が起こる。


 それを流れるマナを存分に吐き出して、剣を力いっぱいに振り切る。



 静止の力は働いている。


 そして時間停止を俺だけ無効化した。



「なんで!?」


 ふぅー。と剣を肩で担ぐ。


「あの〜時間止めるってさ。その〜、ありきたりっていうか。ん〜、時間を止める系のスキルを持った魔王と何回か戦ったことあると思っているんだよ」

「えっ、嘘」


「ほんと」


 シャリルは時間停止の剣を力無く落とす。


「次よ! 刀はどう!」


 シャリルはポーチから刀を出す。そして空間の力を使って、俺の目の前に現れる。


「貴方に呪いと負けをプレゼントした神器よ。刀が届く範囲にいる生物に斬られたという結果だけを付与する」


 刀は届く範囲にいるのに、全く持ってスキルが発動しない。


「それは俺が斬られるという過程があって初めて付与されるんじゃないのか?」


 今の俺に刀なんて当たるはずがない。



「待って! 待って!」


 シャリルの首に置かれた剣から、鮮血が垂れる。


「なんだ?」


 待ってと言われたら、待つことにした。最後の言葉だ。


「あ、貴方様を神にさせてあげ」


「俺の神は間に合っている。間違えなくノエルだ」




 血が付いた剣を放り投げて、神器の刀、神器の剣。そして弓を神器が入ったポーチに入れ、レクシアの剣を地面から抜き。


 ノエルの所へ帰る。


 と、思ったが、そうは行かないらしい。


 首をはねたシャリルの身体の中からボコボコ、ボコボコと音がなり、次第に巨大化していく。


 何を食べたら、こんなに大きくなるんだ? きっと道に落ちている物を食べたんだろうな。


 いや、道に落ちている物なら良い、シャリルは人に成り下がった神の血を飲んでいる。


 禍々しい力を感じる。


 首無しの巨人。


 その首無しの巨人が、勇者を手で持ち上げると、首に持っていく。巨人の首の中央に何故か口があり、その口で勇者を取り込んだ。



 そして巨人は俺に興味は無いと、四つん這いになり、世界樹の方へ飛んで行った。


 だが世界樹は結界で守られていて、巨人は結界に張り付いている状況だ。


 ジジジッ! と、バリバリッ! と、世界樹の結界は巨人から出ている禍々しいオーラによって、ジワジワと溶かされている。


 たぶんこの神もどきは、ノエルとテトナを食うまで止まらないと思う。


 俺を化け物と言った奴が、本物の化け物になるなんてな。


 

 俺が居る場所と巨人の居る場所をチェンジする。


「チェンジ」


 っと、結界を足場に俺がチェンジした所を視界におさめる。




「ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙! ア゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」


 地鳴りのような咆哮で、妖精の国の家々が吹き飛んだ。


 巨人にもやっと分かって貰えたらしい。頭があるのかは分からないが、俺と倒さないと飯にはありつけないことが。


 

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