第40話 一撃必殺の矢


 俺は勇者とシャリルの一挙手一投足を見逃さないように細心の注意を払っている。


 勇者は素人だが、俺の勇者だった頃の身体を使っているからか、反応は良い。


 シャリルから倒したいが、やはり勇者を先に潰さないといけないみたいだ。


 勇者はシャリルから戦い方はこうだと言われても覚えていないだろうし、素人だから起こり得る起点は作りたくない。ラッキーパンチはゴメンだ。


 でもそれもシャリルは考えていると思うと、動きづらい。


 神器の杖は服まで元通りになった。だっだら腕を切っても元通りになるかも知れない。


 待てよ、ポーチにしまったと言うことは。


 俺は神器じゃない剣を真上に思いっきり放る。


 空いた右手で地面から小石を取り、チェンジ魔法を行使する。


「チェンジ」


 呟くと、勇者のポーチがいつの間にか俺の手の中に。


 それには神様もビックリしたのか、大きい目を更に開けていた。


 勇者の方で小石が落ちる音が聞こえたと思ったら、勇者は消えたポーチがあった所を見て、俺を見てと交互に見て、初めて取られたのが自分のポーチだとわかったのだろう。


「卑怯だぞ! 僕のポーチだ!」


 卑怯? 何を言っているんだ?


 勇者の言葉を無視する。


 俺は勇者のポーチを腰のベルトに付けて、杖を取り出した。


 取り出した瞬間に、マナが溶かされて、ぐんぐんと力が溢れ出していく。


 すげぇ。緑の膜に包まれて、マナが循環して行っているのが分かる。


 杖の神器は回復に特化しているのか。マナが身体から出て行っている状態でも無くなった。


 外からもマナが取り入れられるようになったら、俺の本来の力が出せる。


「空間の力は無いはず! なんで! どうして! 私が感知できない空間の力」


 シャリルもチェンジ魔法を褒めてくれた。


「そんなに褒めても何も出ないぞ」


 杖をポーチにしまい、俺はご機嫌な言葉でシャリルに返す。


 そして勇者に狙いを定める。


「勇者様、早く剣を使って!」


 シャリルの声を聞いた勇者は、神器の剣で空を切る。


 何をやっているんだ? と思ったら周りの空気が止まる。


 耳をすませば聞こえるはずの妖精の国から外の人と獣族との争いも聞こえない。


 少し辺りか暗くなったような気さえする。


 これが時間が止まった状態なのか?


 レクシアの剣で俺とシャリルは時間停止を受け付けない。勇者は神器の剣を使ったんだろう。


 なんでシャリルが時間停止をさせたんだ? まぁ、それは簡単だ。


「お前、危なかったな。上を見てみろ」

「えっ、えっ!?」


 シャリルが時間停止を言わなければ、勇者は俺が真上に放った剣に刺されて終わっていた。


 勇者は上を見て、頭を貫きそうになった剣に腰を抜かせていた。


 これでレクシアの剣の範囲内の三人は時間停止を手に入れた訳か。


 勇者が腰を抜かした後に時間が戻って、勇者の股の間に剣が刺さる。


 ジョワッと、勇者のズボンが濡れた。


 元は俺の身体なんだから、勘弁して欲しい。


 俺も時間停止が出来るんだよな? 剣で空を切る。と、また無音になった。


 剣で空を切った所に、空間の穴が空いている。それがジワジワと塞がっていく。


 塞がったら時間停止解除か。分かりやすくていいな。


 ここでは意味ない。いや、意味無いことはないのか。シャリルが時間停止で勇者を助けたみたいな事はある。


 レクシアの剣の効果範囲にいるこの三人には時間停止は意味が無いと決めつけていた。


 神の力の経験値が違いすぎる。まぁこれは俺の頭になかったのが原因だったりするが。



 右肩を回して、行くか。


 回復した俺は立ち上がる勇者を待たずに、勇者が避けて地面に刺さった剣を抜き、そのまま首を狙う。


 光の矢が一二、三と俺を狙ってくる。俺は勇者にトドメを刺すのを止めて、光の矢を避ける。


 光の矢は空間の力だ。転移をしている所を見てない内に初見で空間の力を食らったら危ない。


 右腕、左腕なら杖で何とかなるかも知れないが、足に食ったらお終いだ、逃げられない。


 運が悪いと、頭だけどこかに飛ばされるかも知れない。


 それをシャリルは分かっている。分かっていて、転移の力を使わない。


 一度転移をレクシアの剣を持っている俺が見てしまえば、転移で俺を殺すことは不可能になるだろう。


 もしも俺が転移の力を持っているんだったら他人からの転移は拒否出来るようになる。


 そのぐらい空間の力は意味が無くなる。だがその一撃必殺の手札の切り方を心得ている奴が相手だと、そうも言ってられない。


 勇者一人ならこんなに考えなくても良かったのにな。




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