第38話 別れの言葉
世界樹からノエルがいる所まで走ってすぐだった。
はぁ、はぁと息を荒らげて、ノエルの横に着いた。
ここまでマナが漏れないように走るのがキツいとは思わなかった。
「なんで、テトナが、敵の女に、踏まれてるんだ?」
「お兄様の剣のスキルを使って転移させようとしたんですけど、アッチ側の女性の方のスキルで空間を弄られたみたいです」
テトナを安全な場所に移す時を狙われたのか。
「女の人はシャリル・マクスエル。空間の役割を持った神だったことを知っていながら、私は転移のスキルを使いました」
まぁ、テトナが背に居る状態じゃ、勝ちは狙えない。勝つとしたらテトナに構わずに敵に攻撃するか、攻撃する前に安全な場所に移すかとなる。
空間の神がいても、ノエルは成功確率が高かったから転移のスキルを使ったんだろうし、敵はノエルの想像を超えてきた。
それは時の運だ、しょうがない。
でもノエルの感覚が外れるって相当じゃないか。
「ノエル」
「はい、お兄様」
レクシアの剣とポーチから剣を俺に差し出すノエル。
やっぱりノエルだ。俺が言葉にしなくても分かる。
その剣二本を取る。
勇者に何かされてないか、とか。怪我はないか、とか。今すぐにでも抱きつきたい、とか。色々あるが。
「今の現状、お兄様の呪いを解くことは不可能です。そんな身体のお兄様を無理させる弱い妹でごめんなさい」
催眠を解いたのか? 勇者が催眠を抜かるはずないと思っていたんだけどな。
あぁそうか、盾は自動的に呪いからも外敵からも守るんだもんな。
「弱い妹? 俺にとってノエルは大事な妹だよ。弱くたって、強くたって関係ない。圧倒的に最強だよ」
神器無しで、時間や空間の力を使われたら詰むからな。レクシアの剣を使うことは良いだろう、もともと俺の剣なんだから。
俺が万全の状態なら神器に頼らなくても良かったのにな。
勇者との戦いはちょっと本気を出したと言っても、舐めてたことは事実だ。
これが終わったらノエルを守れなかったことを謝罪する。
「もういい? 兄妹の感動の再会は。貴方がレクシア、は? 随分と顔のランクが落ちたわね」
金の弓を持った女は鼻で笑いながら俺を見下す。
「俺はノエルが俺と分かればそれでいいんだよ」
「そうね。神の記憶を失っても、貴方は妹を溺愛するお兄様ね。それよりも私の下には羽根をもいだテトナがいるんだけど?」
もう戦闘は終わっている。剣を向ければテトナを殺すってか?
「お前の下のどこにいるんだ? テトナは俺の横にいるじゃないか」
「なに!?」
俺の横にテトナがいつの間にか居て、俺はノエルにテトナを預ける。
シャリルという女を見ると、眉間に皺を寄せて、顔に汗を滲ませる。
そして自覚する。剣が足に刺さっていることに。
シャリルは勇者に足を向けて「抜いて! 抜いて!」と、鬼気迫る勢いで言っていた。
勇者はシャリルの足の剣を抜き捨てる。
痛い痛いと叫びたいだろうが、神としてのプライドなのか、俺を睨みつけるだけで、フーフーと息を吹かした。
ノエルはテトナを担いで、そそくさと逃げている。
勇者が追おうとしたが、俺が目線で止めておいた。
勇者は素人でも、俺の本気と対峙したんだ。このぐらいは効いてもらわないと困る。
素人でも視線を見るぐらいは成長してくれたみたいだ。
シャリルは弓で、勇者がポーチから取り出したのが刀と剣か。
「盾がないと、俺の一撃は受け止められないぞ? 剣と刀でいいのか?」
俺は素人な勇者に教えてあげる。
「へへ、この刀は自動で切ってくれるんだ。この前にお前を海に落としたのもこの刀だ。刀で腕を切り落として、剣で時間を止めれば、あとは殺すだけだ」
知ってるよ。
「あとはノエルをまた追い詰めて、次はお兄様だけしか考えられないように記憶を破壊して、ノエルと僕だけの世界を造り上げるんだ。お兄様は二人はいらない。君にはあの世で僕たちの幸せを願っていて欲しいな」
凄いな、自分が制御出来ない力を持ったら、ここまで素直にどっぷり力に浸れるのか。
勇者の身体を交換してまで、勇者になった奴。
「お前、ノエルが褒めてたよ」
「えぇ、ノエルが!!!」
「あぁ、俺よりも勇者のヤル気があるって」
「……」
「お前は今、勇者やっているのか?」
「……」
勇者は下を向いて、喋ることをしない。
「この前は情けない所を見せちまったもんな。元勇者からの餞別だ」
俺は笑顔で、別れの言葉呟いた。
「死ね」
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