第25話 本気
魔法のカバンをノエルに渡し、ポーチから剣を出す。
距離がある勇者は弓をポーチにしまって、金の剣を出してきた。
ノエルが後ろに走ったことで、俺は勇者の首を狙い、剣をスライドさせると、盾で剣を防がれた。
俺の動きは追えないはずなのに、盾の神器には何でも知るスキルと自動防御のスキルでも付いているのか。
金の剣からとてつもない嫌な予感を感じて、距離を取ろうと、後ろへ退く。その時、勇者がニヤリと笑い、勇者の剣は空を切る。
「グッ!」
俺がいつの間にか全身を切られて、海の方向へ吹き飛ばされていた。
自分の生命力を魔力に変換するマナ魔力。そのマナ魔力による硬化で、まだ動けるけど、神器の剣は相当に斬れ味がいい。マナで強化していない素人が剣をいくら振っても俺にダメージはないと言うのに、もう身体がボロボロだ。
吹き飛ばされた衝撃も半端じゃない。
俺は海を水切りの石のように飛び跳ねる間に、体勢を変え、足で海を滑らせる。そして思い切り、大橋にジャンプする。
加速を付けて、勇者に剣を叩きつける。
また盾でガードされて、いつの間にか、次は森の方面に飛ばされる。
地面を跳ねながら、また体勢を立て直すと、足に力を込めて静止する。
盾のスキル。何でも知れる、自動防御、あと俺の攻撃を無効化しているのか。
剣のスキル。マナ強化しているような威力がある斬撃、そして俺が目で追えないほどのスピード。スピードとかの次元じゃない、時を止めているのか。
他にもスキルはあるかも知れない。ここまでの時間停止とか、自動防御とかは、盾と剣のスキルじゃないかも? いや、それはないだろう。そこまで慎重に戦う相手ならベラベラと能力を喋ったりはしない。
盾と剣のスキルは間違いない。
時間停止中に神器を変えたりとかはしてないように思う。
「イッツ!」
右足は言うことを聞かずに、地面に膝から落ちる。剣を地面に刺し、身体ごと倒れるのを抑制する。
血を流し過ぎていて、頭がクラクラして、身体はフラフラする。
時間停止とか、ユニークスキルでもそんな強力なスキルは聞いたことがない、本当に神の力と言うわけか。
俺詰んでね。
ちょっとは本気を出すか。
同じ大きさの石ころ二個を真上から小石一個分ぐらいの落ちた方向へと一つ、一泊置いて一つ、思いっ切りに飛ばす。
フーフーと深呼吸して、右足を叩く。そして再度石ころを左手に拾う。
杖にしている剣を引き抜く。
「ここで決めないと、本当にヤバいぞ」
勇者はニヤニヤとニマニマと人生を舐め腐った表情で、橋から動いてない。
こんな奴に教会は何で神器なんて渡したんだよ。
待て、そういう奴だから神器を渡したのか? 教会側は俺と勇者がチェンジした事を知っていたとしたら?
はぁ、それこそ何のために? だ。
血が減りすぎているのが問題か、有り得ない考えが頭に過ぎる。
「一撃に全てを込める」
俺は目を閉じた。
右手持っている剣を、左の肩に添える。剣からオーラが滲み出ると、オーラが剣に馴染むまで、深く深く研ぎ澄ます。
先程まで心地よい風があったのに、今では風を感じることはない。あるのは柔らかな地面の感触と張り裂けそうな心臓の爆音。
目を開けると、勇者と俺の間に空気の輪が出来ていた。地面蹴ると一瞬で勇者の目の鼻の先に飛んだ。
そして剣を地面と水平に放つ。盾が反応できないほどに速度を持った剣は勇者の首を狙う。
だが盾は転移したかのように、突然現れた。
「チッ!」
舌打ちし、勇者の剣が動く。空を切り裂いたところで。
「チェンジ」
時間が息を吹き返し、上を見れば、大橋でキョロキョロと誰かを探す勇者が見える。勇者は剣も盾もしまって、刀を持っている。
この状態にならないと時間の概念を感じれもしないなんて、転生者風に言うならチートだな。
俺は足先に当たる石ころを起点に屈み力を込める。
また俺と勇者の間に空気の輪がいくつも出来た。
「これで最後だ」
足を解放し、勇者に剣を振る。大橋は壊れ、橋のガレキと一緒に俺は落ちている。
相当なダメージを負ったのか、俺の身体は動くことをしない。指の一本も動かない。
何が起こった。
何故か浮いている勇者は刀を持ちながら、俺を見下ろしてニマニマと笑顔を崩さない。
俺は負けたのか。
いや、まだまだやれるだろう! まだまだやれる!
まだ!
「カハッ!」
後ろに衝撃があり、その後は海の水で勇者がボヤけて、だんだんと周りが暗くなる。
まだ……。
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