第26話 お兄様?


 大橋が大きな音をたてて、崩れる音がします。


 お兄様は勇者さんを倒すことが出来たのでしょうか。


 勇者さんが持っていた武器は神の武器と分かりました。お兄様でも神器の一つか、二つでギリギリと言った所でしょうか。


 私が逃げる時に見た勇者さんの武器は弓と盾と剣、他にも神器を持っていたらお兄様に勝ちはない。


 お兄様が勇者様をやっていた時は教会の人に頼んで、武器を貸してくれと言ってたらしいんですけど、いつも貸してくれないと言っていたのに。


 それはお兄様が武器に依存しないから、今の橋で見た勇者さんは神の武器の虜になっていた。


 何でお兄様と、勇者さんが入れ替わっているのがバレたのか。いいえ、今の勇者さんは誰か見たって分かります。薄っぺらな正義感で、心も脆いと。


 教会の人は誰でも良かったんだと思います、勇者の称号があって記憶喪失な勇者さんは丁度良かったと。


 だから教会の人に、そこを漬け込まれた。勇者が悦に浸り扱っている武器は神の武器だと。


 勇者さんを教会の人の駒にするために。


 もう勇者さんは神の武器無しじゃ生きられない、力を行使出来ない状態です。そこに教会の人はこう言うだけでいいのです。「神の武器は私たちの祈りのお陰で力を行使することが出来ます」と。


 今の勇者さんは簡単にへりくだるでしょう、お兄様だったら絶対にやらないことです。



 走って走って走ってましたけど、流石に疲れてきましたね。


 妖精の国へは行けないです。もし私が妖精の国へ行けば、勇者さんは結界を破って来ます。そして妖精さんや、獣人さんを殺すでしょう。


 それだけは絶対にダメです。お兄様が勇者さんを倒してくれると信じていても、ダメです。


「も〜ういぃ〜か〜い」


 森で勇者さんの声が聞こえました。私は木の影に隠れます。


 まさかもうお兄様が負けた。


「も〜う、いぃ〜、か〜〜〜い!」


 かくれんぼの鬼の言葉を使い、私を呼ぶ勇者さん。


 だんだん近くに寄って来ていることから、私の位置は知られている。


 随分とつまらないかくれんぼですね。



 木の影から出ると、遠くに勇者さんの姿が見える。


「ノエル見ぃつけ〜た」


 ヨダレを垂らしながら私の名を呼ぶ勇者さん。ジュルジュルと袖で口元のヨダレを拭う。


 寒気がして、ゴクリと唾を飲みます。


「お兄様はどうされたのですか?」

「殺した」


 嘘、、、。


 ここに勇者さんが来ているという事はお兄様が死んだと言うこと。


「嘘だ!」

「ノエルのお兄様は殺したけど、今から僕がお兄様になるんだからいいだろ。あんな弱いお兄様、ノエルは嫌だろ」


 勇者さんは盾のスキルでお兄様がお兄様だと知っている。それなのにお兄様になりたいなんて、自分勝手な言い様に唖然とする。だんだんと私の近くに来る勇者さん。


「お兄様はお兄様です。貴方をお兄様と呼ぶことはないでしょう。どれだけ身体を思うがままにしても、絶対に。私は絶対に屈することはないでしょう!」


 私の身体が目当てと言うことは、私を殺したりはしないはずで。


 お兄様が私を置いて行くなんて、ないはずで。


 私のお兄様は家で待ってれば、今日強敵にあったって、明日には帰ってくるほどに無敵なんです。


「お兄様は必ず帰ってきます」



 勇者さんはポーチから神器の銃を取り出して、私の頭に銃を向ける。


「そう! そうさ、必ず帰ってくる。僕は今から、お兄様なんだから」


 ニマニマと、ニヤニヤと、勇者さんは笑いながら。


「何を!?」


 銃の引き金を引いた。





 音はパンと一発、乾いた音でした。私は腰から地面に落ちて、死んだと思いました。


 でも頭を狙われたけど、血は一滴たりとも流れていないし、傷を手で確かめても確認できません。


 無傷です。


「かくれんぼの途中じゃないか」

「そうでした、ね? なぜ銃を?」

「ビックリした! 空撃ちでした〜」


 お、お兄、お兄様が手を出てきて、私はその手を払いました。


 なぜ? お兄様の手なのに、払うなんて悪い子になっちゃいました。


「何故でしょう、手が勝手に」


 お兄様は目を真っ赤にして、ニマニマ笑顔も、ピクピク痙攣しています。


「ほ、ほらノエル、立ちなさい」


 またお兄様が手を出てきました。お兄様は優しいです。その手を払いました。


「嘘!? 何で? お兄様の手を」


 お兄様は目を尖らせて、身体を震わす。次は手を出さずに、銃を向ける。


「ノエル、お仕置だ」



 乾いた音が一発、二発、三発と、続いて。


 私の頭が揺さぶれた。そして視界が白へと染まりました。



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